【連載・前田悠伍④】握りは8年間変わらず…3本指の“魔球” 原点は変化球「禁止」の時代

前田悠伍【写真:竹村岳】
前田悠伍【写真:竹村岳】

「ウイニングショット」チェンジアップに関する秘話

 人気企画「鷹フルシーズン連載~極談~」。前田悠伍投手の5月後編は「ウイニングショット」について、です。自身をプロ入りへと押し上げてくれたチェンジアップとの出会い、そして父親への感謝を赤裸々に語ります。19歳とは思えないような投球術と、マウンドさばき。その片鱗は、小学生時代から示していました。

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 握りは8年間も変わっておらず、アマチュア時代から絶対的な自信を持つ。チェンジアップという球種については「原点ですね。投げミスをすることなく『打ってみい』、っていう感覚で投げられています」と表現する。ドラフト1位でプロの世界に飛び込み、今季が2年目。「スライダーやカーブに関しては言われたことがありますけど、チェンジアップは(具体的な指導をされるようなことは)一切ないです」。それだけ完成度が高いウイニングショットだ。

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 野球を始めた時から、ポジションは投手だった。小学生時代には、少し色気づいて変化球を投げてみたい気持ちもあった。「ちょっと曲がるだけで審判の方からも注意されるじゃないですか」。そこで工夫を凝らしていたのは、ボールを握る指の本数。本来、フォーシームなら人差し指と中指でグッと押し込むが「薬指も含めて3本指で投げていた記憶がありますね。変化球がダメだから球速差だけつけてみる、みたいな」。自然と「力が入らない握り」で投げていた。打者との間合いを制するマウンドさばきの才能は、この時から見せていた。

 中学時代は湖北ボーイズに所属し、変化球が解禁された。ここで初めて、チェンジアップと出会った。「まずは父親から教えてもらいました。カーブ、スライダーにみんなはいきがちやけど、捻ったりとか曲げたいって思うと、おかしい腕の振りにもなるし、怪我をすると元も子もない。チェンジアップだと真っすぐと同じ感じで投げられる。(父から)『最初はチェンジアップにしぃ』って言われたので、そこが最初でした」。

握りを教えてくれたのは意外な「先生」

 スライダーなどはどうしても「捻る」動作が必要となる。一方でチェンジアップは「抜く」球種で、直球と同じ腕の振りだから肩や肘に負担もかからない。「変な癖はつかなかったし、大きな怪我もしたことないです。小学校の時に(父親と)キャッチボールをしていたんですけど、いい投げ方を教えてもらって感謝です」と振り返る。また、握りについては4歳年上の兄が通っていた整骨院の先生に教えてもらったという。

 中学2年になってカーブやスライダーにも興味を示したが「ストライクがあんまり入らなかったんですよね」と苦笑いする。曲がり球の練度を上げるには、自分なりに苦労していた。「中学レベルではありますけど、真っすぐとチェンジアップの2つで抑えられていましたし。いけるところまではこの2つでいこうと思っていた」と、少しずつ信頼は深くなっていった。

チェンジアップの握りを見せる前田悠伍【写真:竹村岳】
チェンジアップの握りを見せる前田悠伍【写真:竹村岳】

 結果を残し、自分の名前も大きく広がっていく。比例するように、大阪桐蔭高への気持ちが強くなっていった。15歳の春、憧れ続けたユニホームに袖を通した。

 実力を試すことができたかと思えば「いや、それが全然だったんですよ」という。記憶にあるのは、2歳年上の3年生たちに自信を打ち砕かれたことだ。

「最初から3年生のシート打撃に投げさせてもらっていた。最初の1回、2回はぴしゃって抑えたんですけど、3回目で今青学大にいる藤原夏暉さんに、チェンジアップの低め、けっこういいところをカーンとホームラン打たれて。この人らすごいなっていうのもそうだし、まだまだ通用しないなって思いました。池田(陵真、オリックス)さんにも逆方向に、柵の向こう側に道路があるんですけど、そこまで飛ばされたり。ホームランしか打たれていなかったです」

自信になったのは「逆に打たれたこと」

 1年秋からベンチ入りを果たし、その後は3度の全国制覇を成し遂げた。今振り返っても「一番嫌な打線は3年生の先輩方でした。それに比べれば、1個上の人でも『いけるな』と思って投げていました。逆に、3年生に打たれたことも自信になりましたね」。圧倒的な打線を1年春から経験したことは、自分自身を大きく飛躍させた。

 プロ2年目となり、今磨きをかけているのがフォークだという。高校1年の夏、2歳年上だった松浦慶斗投手(日本ハム)から手ほどきを受けていた。「カウントも取れて、ゴロも取れる球になっている。そういう出会いはありましたね。あの時に聞いてよかったです」と、新しい武器にしようとしている。自分だけの原点を忘れることなく、1人の投手としてもっともっと成長していきたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)