30本目の安打…周東と並んでチームトップタイ
追い求めてきたものをもう1度、手にしつつある。前向きな表情には、確かな理由があった。ソフトバンクは10日のオリックス戦(京セラドーム)に1-6で敗戦した。終盤までビハインドの展開が続いた中、9回1死から左前打を放ったのが中村晃外野手だ。これが今季30本目のヒットで、周東佑京内野手と並んでチームトップタイとなった。
今季はここまで31試合に出場して打率.283、1本塁打、6打点。安打に加えて18四球もチームトップで、出塁率.387と5番打者として打線を支えている。2025年は、代打に専念するシーズンになるはずだった。近藤健介外野手が離脱したことで、小久保裕紀監督は中村の力を借りることを決断。「2人で決めた(代打起用という)約束よりも、一番果たさなくちゃいけない目標がある。それは優勝、日本一なので」と語っていた。
柳田悠岐外野手ら主力の離脱が相次ぎ、15勝18敗2分け。チームとしても、まだまだ戦いの形を探している段階だ。中村自身、「チーム状況はありますけど」と話しつつ、今抱いている充実感を口にする。野球が「楽しい」というのは、心からの本音だった。
「僕も若い選手と同じでチャンスなので。みんなが帰ってくる前にしっかり打って、というモチベーションもあります。チーム状況の前に。毎日試合に出られているのが普通に楽しいです。(チームトップタイの安打数も)もともとはないと思っていたものなので。幸せを感じながらやっています」
昨シーズンのスタメン出場は30試合。今季はすでに26試合と、グラウンドに立つ時間は確かに長くなった。「オープン戦から状態は悪くなかった(20打数8安打、打率.400)。やってきたことを公式戦でもできています」と、取り組みがしっかりと結果につながっている。1試合につき、1打席。そんなシーズンになるはずが、「替えの効かない存在」として、首脳陣から力を求められている。「毎日がラストチャンスのつもりで、悔いのないように、準備だけは怠らないようにしています」と決意は固い。
2024年は主に代打…時には口にした“弱音”
2024年、代打という新しい役割を求められ、時には弱音も口にした。その中でも結果を出すためだけに“一振り稼業”のやりがいも自分なりに探した1年間だった。チーム状況の影響も受けながら、今年はグラウンドに立ち続ける日々。「代打の良さももちろんありますしね。スタメンもやっぱりいいものだなと、面白いなっていう感情はあります」と認めた。そして語ったのは「去年は苦しかったのでね。それに比べればめちゃくちゃ楽しいですよ」――。純粋に野球を楽しむ気持ちに、今抱く中村の本音が込められていた。
借金生活が続く中、5月は6勝3敗と息を吹き返してきた。柳田がいない今、中村が1軍の最年長選手だ。自分自身の結果はもちろん、若鷹たちの姿を見ながら「苦しいですけど、受けてしまうとどうにもならない。土壇場になれば積極的にいくことが大事だと思います」という。プレッシャーがかかる場面ほど、前のめりになることが今のチームには必要だ。
「行く時は行く、って感じですね。行っていい時とダメな時はあります。でも、それもあんまり考えすぎてもよくないので。1試合、27球で終わってもいいくらいの感覚でやった方がいいんじゃないかなって今は思います。若い選手も多いし。それでいい結果が出ると思うんです。あれもダメ、これもダメってなってしまうと、手も足も出なくなってしまうので」
「1試合27球で終わってもいいくらいの感覚」
中村にも、後悔してしまうようなシーンがあった。4月29日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)、相手先発は伊藤大海。9回2死二塁というシチュエーションで「カウント2-0でど真ん中を見逃したんですよ。あれじゃ勝てないなって思ったので。やっぱり思い切りは大事ですよ」と、悔しさとともに振り返る。まずは、自ら積極性という勇気を持つこと。確かな技術さえ自分にあれば、結果は必ずついてくる。
スタメンで起用されれば、これだけの結果で応えられる。「ダメだったら終わりというのはわかっているので。あまり失うものもなく、前向きに準備ができている感覚はあります」。衰えるどころか、磨きがかかるばかり。自分の技術ならこれからも戦っていけると、左打席で証明する。
(竹村岳 / Gaku Takemura)