有原航平を「信じて待つだけ」 開幕以降は不振も…首脳陣がかけ続けた“2文字”の言葉

今季2勝目を挙げた有原航平【写真:栗木一孝】
今季2勝目を挙げた有原航平【写真:栗木一孝】

有原の2勝目に浮かべた安堵と喜び

 安堵の表情を浮かべたのは、好投した本人よりも首脳陣の方だった。開幕から思うような結果が伴わず、苦しい登板が続いていた有原航平投手。しかし、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)は、エースの姿を冷静に見つめ、変わらぬ信頼を寄せ続けていた。
 
「初回も取られて、次のイニングも取られるとやっぱり流れが向こうに行ってしまうと思うんで、あそこをゼロで抑えれたのは良かったかなと」

 こう語る右腕は、9日のオリックス戦(京セラ)で7回1失点の好投を見せ、今季2勝目を掴んだ。初回に先制を許すと、2回も1死二、三塁のピンチを招く。ここを無失点で切り抜けたことが、小久保裕紀監督も「ポイントだった」と最敬礼した。そんな有原に対し、倉野コーチは開幕当初からの変わらぬ評価と、結果が出ない時期にかけ続けた言葉を明かした。

「元々、開幕から状態が悪いと思っていませんでした。むしろ、良いとさえ思っているので。ちょっとした歯車というか。開幕戦も5回までパーフェクトでしたし、結果以上に状態は悪くないと見ていました。それが徐々に、いろんな要素が噛み合ってきたという感じです」

 周囲がエースの不調を囁く中でも、倉野コーチは確かな手応えを感じていた。その言葉通り、3月28日、ロッテとの開幕戦では5回まで1人の走者も許さない快投を見せるなど、片鱗は示していた。3月&4月は5試合に登板し1勝3敗、防御率4.78。昨季の最多勝投手らしからぬ成績だったものの、ボールから感じる復調の気配を、首脳陣は信じて待ち続けていた。

取り戻した本来の姿…「信じて待つだけ」

 5月に入ると防御率2.57と本来の投球を取り戻しつつある。有原自身は、この日の登板で先制点を許したことを「反省点」としながらも、「粘り強く投げられたので。打線がすごく援護してくれたので助かりました」と、苦しみながらも試合を作れた手応え、そして野手への感謝を口にした。

 特に2回に訪れたピンチを切り抜けた場面は、右腕の真骨頂だった。「1死二、三塁になったところ。同点にした後で、ゼロでいってくれてゲームを作れた」と、小久保裕紀監督も勝敗のポイントにあげた。ピンチにも動じず、来田を二飛、紅林を三ゴロに打ち取った。内角を厳しく攻めながら、ホームベースを広く使った投球だった。

 こうした有原の修正能力、そして粘り強さこそ、倉野コーチが信頼を置く理由だ。「そういったところも含めて、彼は能力が高いので。僕は彼を信じて待つだけでした」と、エースが本来の姿を取り戻すのは時間の問題だと捉えていた。

勝利を収めハイタッチをする有原と倉野コーチ【写真:栗木一孝】
勝利を収めハイタッチをする有原と倉野コーチ【写真:栗木一孝】

 開幕して以降も、首脳陣として特別な心配はしていなかったという。「数字がついて回る世界なので、いい数字がつかなかった時に『我慢するんだよ』というのは伝えていました」と倉野コーチ。4月中に伝え続けたのは“我慢”の2文字だった。

「調子自体は悪いと思っていなかった。噛み合うまで、精神的に集中力が切れないように。そこを保たせるためにも『我慢だよ』っていうのは常々言っていたので」

 その言葉を信じ、有原が掴んだ2つ目の白星。倉野コーチは「こうやって結果に表れて嬉しいです」と、安堵の表情で喜びを噛み締めた。「次はもっとしっかり、入りから行けるようにしたいと思います」と、さらなる飛躍を誓ったエース。首脳陣の信頼は揺るがない。

(飯田航平 / Kohei Iida)