又吉克樹が“直筆”で伝える思い…試合前に手渡す1冊のノート 育成捕手にも「ぜひ教えて」

又吉克樹【写真:冨田成美】
又吉克樹【写真:冨田成美】

5月1日の阪神戦で6回無失点「よかったと思う」

 先発として、新たな発見を重ねている。本格的に先発転向し、1軍昇格を目指している又吉克樹投手。徹底的な準備が詰まっているのが、1冊のノートだ。前回登板は5月1日、ウエスタン・リーグの阪神戦(タマスタ筑後)で6回無失点と結果を残した。振り返っても「よかったと思いますね」と胸を張る。

 通算503試合登板と、豊富なキャリアの持ち主。オープン戦でも防御率1.69と結果を残したが、開幕1軍からは漏れることになった。そのタイミングで倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)から打診されたのが、先発転向だ。5月1日の阪神戦は、今季5度目の登板だった。ゼロを並べることができたのも、捕手との会話を欠かさなかったからだ。

「松山(秀明2軍)監督や細川(享2軍バッテリー)コーチの話を聞いていた中で、試合中にキャッチャーとの会話をもっと増やさないといけないかなと感じました。同じ真っすぐを投げるのでも、空振りを狙うのか、ボールでいいのか、狙い1つで全然違うのは当然のこと。真っすぐに強いバッターに対してそのサインが出た時に『あれ?』って、マウンドで思わないように、ですね。意識していたことですけど、もっともっと必要だなと」

 バッテリーの意思疎通ができていれば、サイン交換に時間もかからない。投球のテンポも自然とよくなっていくのだから、野手にリズムを生み出すこともできる。キャリアのほとんどを中継ぎとして積み上げてきたが「試合中にコミュニケーションをとる」というのも、改めて又吉にとっても発見だった。「ベンチでもそうですよ。ピッチャーとキャッチャーが、もっと近くに座るだけでも変わってくると思います」。

又吉克樹と嶺井博希【写真:冨田成美】
又吉克樹と嶺井博希【写真:冨田成美】

試合前の“ミーティング”で「これ見ておいて」

 今季がプロ12年目。先発としてマウンドに上がるまでの1週間で、工夫を凝らして用意しているのが1冊のノートだ。打者1人1人の名前を並べ、ストライクゾーンに見立てた四角の箱を記す。自分なりにデータもまとめて「そこに特徴はこうだと思うっていうのを書いて『他にも感じることがあったらぜひ教えてほしい』というのは伝えていますね」と明かした。5月1日の阪神戦では、バッテリーを組む大友宗捕手へ事前に手渡していたという。

 又吉のノートを受け取った大友は「いつも試合前に(バッテリーで)ミーティングをするので『これちょっと見ておいて』と渡されました。考えを擦り合わせて、それもしっかりと試合で使いながらという感じです」と頷く。もちろん、全て直筆。1999年生まれのオールドルーキーは、先輩右腕の文字から「こういう感じでまとめているんだなと思いましたし、投手でここまでやる人は珍しいですよね」と、新たな発見をさせてもらった。

 チーム最年長の34歳。チーム内でも屈指のキャリアを持つだけに「又吉さんは、自分で自分のことをわかっている。『こういうふうに投げたら抑えられるんじゃないか』というのをノートから見せてもらって、文字からもこういうふうに考えているんだなというのは伝わってきました」と大友も振り返る。試合中にもコミュニケーションを重ねる中で、特にこだわったのは「構える位置」だった。

又吉克樹の“直筆”…大友宗が受け取った思いは

「どこに(ミットを)構えれば、どういう意図を持って投げるのかというのを伝えてもらいました。例えば『ゾーン内に構えられたら、俺はゾーン内に投げに行く。けど(打席の)ラインに構えていたらバッターの足を引かせに行く』だとか。マウンドとホームだと、1球1球、話はできないじゃないですか。だから自分のジェスチャーとかで意思も伝えつつ『それでも嫌だったら、1回プレート外してください』って。共通意識を持てたのは阪神戦はよかったんじゃないですかね」

 2022年からホークスの一員となり、今季が4年契約の最終年だ。「今年で終わりなんだとしたら、先発だったらあと20回も登板はないじゃないですか。1回1回やり切りたいと思ったら、“なんとなく打たれる”っていうのはしたくないんです」。新しいポジションで、必ずもうひと花咲かせる。覚悟を持って、腕を振り続けていく。

(竹村岳 / Gaku Takemura)