わずか1登板で2軍行きが決まった岩井俊介
恥ずかしさ、悔しさ、情けなさ――。様々な気持ちを押し殺して、気丈に振る舞った。「2軍に行ってきます!」。チームメートへは力強く宣言したが、岩井俊介投手に悔しさがないはずがなかった。
6日にベルーナドームで行われた西武戦。岩井は8回から2回を投げ無失点3奪三振の好投を見せた。しかし、1軍での前回登板は4月16日の楽天戦(楽天モバイルパーク)まで遡る。2回1失点で降板し、その後は登板がなく、同19日に登録を抹消された。
今季初の1軍生活はわずか3日間。1試合のみで終わった。「抑えられなかった僕が悪いんですけど……」。抹消が決まった夜、今宮健太内野手らとの食事会があった。そこで今宮から言われた言葉とは――。
4月19日の試合前、岩井は真っ先にベルーナドームのグラウンドに顔を見せた。他の投手陣が練習をしている中、一足先に自らの練習を終えた。チームメート、コーチ、野手に挨拶。試合が始まる前に球場を後にした。
「いや、もう恥ずかしいっすよ。『2軍に行ってきます!』って全員に。めちゃくちゃ恥ずかしかったです。3日間くらいで抹消されたんですから。(チームメートからは)『はやっ!』みたいな反応が多かったですけど、『やることやっておけよ』みたいなことも言われました」
チームは昨年12月時点で、僅差で迎えた終盤の1イニングを任せるリリーフとして、ロベルト・オスナ、ダーウィンゾン・ヘルナンデス、松本裕樹、藤井皓哉、杉山一樹、尾形崇斗の6投手を指名していた。その他の救援陣の枠も限られていた。岩井はその“枠”から漏れた形となり、開幕を2軍で迎えた。
4月16日にヘルナンデスが2軍で再調整となり初昇格。しかし、2日後の4月18日の試合後、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)から降格を言い渡された。翌19日は東浜巨投手の今季初登板が決まっていた。枠を空けなければならず、「チーム戦略上」での抹消だった。
集合時間に遅刻、呼び出しで「勘付いたと思う」
降格が決まった夜のことだ。今宮、津森宥紀投手、杉山一樹投手、渡邉陸捕手の他に裏方や西武の野手も参加していた食事会。ホテルのロビーに集合する予定だったが、倉野コーチに呼ばれた岩井だけが集合時間に間に合わなかった。「『倉野さんに呼ばれています。集合時間に遅れます』みたいな。みんなそこで(2軍降格を)勘づいたと思う」と振り返る。
会食中は周りに気を遣わせないために気丈に振舞っていたが、タイミングを見て「すみません。明日から2軍です!」と宣言した。すると、すぐさま右腕に声をかけたのは今宮だった。「『やることちゃんとやっとけ。腐るなよ』って言ってくれました」。
すぐに切り替えられた訳ではなかった。「正直、一瞬腐って、マジで気持ちが入らなくてダメな時期があった」。それでも今宮の言葉は頭に残っていた。「僕のプライドというか、『やばいぞ、筋肉落ちるぞ』みたいな感じで、ウエートはめちゃくちゃやっていました」。悔しい気持ちを押し殺し、無心でトレーニングを続けた。
降格後は2軍で無失点「後悔のない道を」
降格後、2軍では4登板で4回と2/3を投げ、無失点の好成績を収めた。「弱気になっていたので、強気で投げることだけ考えました」。そして、12日後の5月1日、再び1軍昇格を勝ち取った。6日の西武戦では2回無失点。2軍降格が決まったベルーナドームで雪辱を果たした。
「後悔のない道を選んでいます」。降格時に見せた上辺だけの空元気はもう出さない。チャンスは決して多くはない。それでも、一つ一つ積み重ね、なんとしても1軍にしがみつく。
(川村虎大 / Kodai Kawamura)