苦しい戦いが続くからこそ、後輩が背中を見ていることはわかっている。最後の最後まで、チームリーダーとしての行動を見せていた。ソフトバンクは3、4月の戦いを終えて9勝15敗2分け。5月は5勝2敗と息を吹き返し始めたが、柳田悠岐外野手が離脱していることで、1軍の最年長は中村晃外野手だ。「チーム状況はありますけどね」と春先を振り返るが、主にスタメンを託される日々を過ごしている。
今季はここまで29試合に出場して打率.270、1本塁打、5打点。116打席を消化し、27本の安打を積み重ねている。昨シーズンは203打席で40安打だった。単純に比較しても、グラウンドに立つ時間が長くなっているのは間違いない。2月の春季キャンプ中に小久保裕紀監督から「代打専念」を託されたものの、近藤健介外野手が離脱したことで中村の力を借りることになった。
「グラブを置いていい」。指揮官の言葉から始まった2025年だが、どんな時も準備を怠らない。中村らしさが見えたのが、4月17日の楽天戦(みずほPayPayドーム)。逆転を許した9回だった。孤独に沈みそうなチームメートを「独りにしない」――。
前田純投手と、40歳右腕・岸の投げ合いで試合は進んでいった。スコアは動かず、迎えた6回2死一、三塁。打席に立ったのが中村だ。3ボール1ストライクから「カウントもよくなったので、いくなら思い切っていこうと」。140キロ直球を仕留め、右翼席に1号3ランを放った。2023年9月30日以来のアーチ。「ちょっとバットの先でしたけどね。(ホームラン)テラスまではいくと思いました」と感触は十分だった。
しかし、展開はいきなり変わる。2点リードの9回に登板したロベルト・オスナ投手が村林に2ランを浴びるなど、3失点を喫した。必勝パターンが崩れたことで誰もが意気消沈する。うなだれた助っ人右腕が、マウンドからベンチに戻ってくる中で1人だけ、ポンと背中を押したのが中村だった。
「やっぱり声をかけづらいですからね。独りにしないっていうところじゃないですか」
■逆転を許した直後…オスナが語る感謝の理由
逆転を許し、失意の底にいた。降板後にオスナも「1回から9回まで野手の方、先発の方、中継ぎの方がここまでゲームを作って頑張ってくれたのに……」と語ったように、周囲に対して自ら距離を置いてしまいたくなるシチュエーションだった。「壁を感じてほしくない」という中村なりの小さなメッセージに、背番号54も「晃さんはここで長年プレーしていて、何度も優勝をしている。そういう方から優しくしてもらったのは嬉しかったですし、チームメートから手ほどきを受けて、より応えたいという思いです」と頭を下げた。
苦しい状況は、選手たちも認めている。中村も「みんな準備はしていると思います。プロ野球なので、こういう結果になることもありますし。その中で反省して、課題を見つけながら次の日に備えるしかない」と言い聞かせた。今の1軍で最年長であるという意識は「あんまりないですけど」というが、「みんなやることはわかっていると思います。若い選手がいますけど、いい準備をして試合に向かっていけたら結果は出るんじゃないですか」。自分なりにできる、後輩たちへのメッセージだ。
4月30日の日本ハム戦後、王貞治球団会長の号令でチームは集められた。首脳陣と選手が揃う中、声を発したのは小久保監督。中村はその内容を「もう1度、しっかりと自分の準備と緩んでいる部分がないか、それぞれが考えてまたあしたから頑張ろう、ということでした」と明かす。大きな試練が訪れていることは確か。逆境だからこそ、ホークスが積み上げてきたものを、もう1度信じて戦う。