なぜ杉山一樹は3連投した? 首脳陣へ志願の理由…不退転の覚悟「周りが思ってるほど…」

3連投した杉山一樹【写真:小林靖】
3連投した杉山一樹【写真:小林靖】

5日の西武戦で3連投「あの1敗がって…」

 シーズン序盤の3連投に様々な声が寄せられたが、本人に迷いはなかった。「世の中的には3連投、4連投は良くないって風潮があるけど……」。6日時点で両リーグトップを走る16登板で防御率1.72。セットアッパーを担う杉山一樹投手が率直な思いを明かした。

 9連戦中の7試合目だった5日の西武戦、チームは今季初の3連投を解禁した。2-0の8回に登板した杉山は振り逃げと安打で2死一、三塁のピンチを招いたが、最後は中村剛也内野手を155キロ直球で空振り三振に仕留めた。

 倉野信次投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)も「杉山に関しては、人一倍タフなので、そういうところは頼っている部分はある」と正直に話す。なぜシーズン序盤で3連投させたのか。本人が首脳陣に伝えた思いは――。

「連投は周りが思ってるほど僕は心配してないし、負けたら意味がない。100か、ゼロかなので。連投を避けて、後手に回って負けたとして、後で思い返して『あの1敗が』ってなるぐらいだったら、投げられるだけ投げた方がいい」

 退路を断つ覚悟で戦っているからこそ、出てくる言葉だった。2018年ドラフト2位と高い期待を受けて入団したが、2022年まで4年間でわずか3勝。2023年は1軍登板なし。昨年、開幕前に救援転向を直訴し開花したが、苦悩の5年間で芽生えたのは、毎年が“ラストチャンス”という思いだった。

「去年先発を断って、次にダメだったら普通にクビだったし、今年が最後だと思っている。日本一を取れなかったから、もう1回日本一を取りにいって。納得して終わろうくらいの気持ちで。別に勝てればなんでもいいと思ってるので」

 1年1年が勝負のプロ野球。投げずに後悔することだけは避けたかった。小久保裕紀監督、倉野コーチには9連戦が始まる前から「連投でいけます」と伝えていた。もちろん、実力がなければ、投げられない世界。倉野コーチも「杉山に関しては体力的なところのアドバンテージはかなりあるので」と話すように、3連投は信頼の証でもある。

無失点で凌ぎベンチに迎えられる杉山一樹【写真:小林靖】
無失点で凌ぎベンチに迎えられる杉山一樹【写真:小林靖】

救援転向で捨てたわがまま「勝てれば何でも」

 救援転向を直訴してから、“わがまま”も捨てた。「(投げる場所に)固執して、誰かに負担かかったりとか、チームが負けたりしては意味がない」。自ら切り替えが苦手だと話す右腕は、本音を言えば、打たれた翌日はすぐにでもやり返したい。そんな思いもあるが「それはあくまで自分のわがまま。去年もそのわがままを捨てた結果、チームのためにできたので」と足元を見つめる。

 連投すればするほど、怪我や不調のリスクは伴う。理解しているが、「ご飯を食べて寝たら、だいたい大丈夫でしょうって感じ。治療は今年ゼロです」と胸を張る。3連投した翌日の試合前、杉山は投げる準備をしていた。「連投しないといけない時は出てくるし、それが昨日だったかもしれないし。一番は勝ちたい。勝たないといけないから」。チームへの献身と不退転の覚悟――。マウンドに立たない後悔だけは、したくない。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)