川口冬弥、支配下登録の可能性は? 首脳陣のリアルな評価…求められる“具体的な条件”

ピンチを切り抜け雄叫びを上げる川口冬弥【写真:竹村岳】
ピンチを切り抜け雄叫びを上げる川口冬弥【写真:竹村岳】

育成6位から入団した25歳…2軍で10試合連続無失点

 自らの力で、次なる段階の扉をこじ開けている。10試合連続無失点。首脳陣から得ているのは「絶大な信頼」だ。ソフトバンクの2軍は5日、ウエスタン・リーグの広島戦(タマスタ筑後)で3-3で引き分けた。9回から登板した川口冬弥投手が2回無失点と終盤を締めくくり、チームを負けさせなかった。

 1999年10月生まれの25歳。昨オフのドラフト会議で育成6位指名を受け、四国IL徳島からホークスに入団した最速155キロの右腕だ。この日は3点ビハインドの9回からマウンドへ。広島打線を封じると、その裏の攻撃で同点に追いついた。延長10回は無死二塁からのタイブレーク。2四球で満塁にはしたものの、3三振を奪って無失点だ。

 4月12日に山本恵大外野手が支配下登録され、残りは「4枠」。離脱者が続出している中、1軍は13勝16敗2分けの5位で、上位進出のきっかけは常に探しているだろう。川口は10試合に登板して12イニングを消化。14三振を記録するなどして、リリーフとしての適正も示している。「1軍というモノサシ」で右腕を見た時に、どのような評価がくだされているのか。松山秀明2軍監督は「絶大な信頼」という表現で、川口の現在地を語った。

「僕は1軍で通用すると思っている。『2軍だから』という見方は(どの選手にも)しない。1軍だとどうか、と常に考えて選手にも意見を言うし、逆にやって当たり前のことを褒めることもしないです。川口は僕も含めて投手コーチも、絶大な信頼がある。1軍でも力を出せるんじゃないか、と。それくらいのものは見せてもらっています」

 支配下登録という1つの通過点に向かって、川口は確実に次なる段階へと入っている。それは「複数イニング」を任されるようになったことだ。ウエスタン・リーグの10試合登板の中で、初めて2イニングを消化したのは4月26日のくふうハヤテ戦。複数回という経験は、この日が2度目となった。

小笠原孝2軍投手コーチ(チーフ)と川口冬弥【写真:竹村岳】
小笠原孝2軍投手コーチ(チーフ)と川口冬弥【写真:竹村岳】

松山秀明2軍監督が語る「絶大な信頼」の“中身”

 倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)はロベルト・オスナ投手や松本裕樹投手ら、1イニングを託す6投手の名前をはっきりと挙げてきた。今で言えば松本晴投手や大山凌投手に求められているのがロングリリーフとしての役割。「ショートリリーフをする投手が固まっている以上、残りの2人、ないし3人は絶対に2、3イニングは普通に投げられないといけない」と倉野コーチも語っていた。

 支配下登録、そして1軍の戦力になるのなら、複数イニングはこなさなければならない。川口にとっても、課題は明確だ。松山監督は「きょうに関してはピッチャーのメンバー的な問題もありますけど」とした上で「彼の今後も見据えた登板でもありました。最後にあれだけの力を振り絞れる彼もまた、いいものを見せてくれましたよね。最後はやっぱりああいう気迫がないと。空振りを取れるか、打たれるか、本当に紙一重ですからね」とキッパリ。着実なステップアップを見せ、アピールに成功した。

延長10回1死満塁から連続三振も…「投げミスだった」

雄叫びを上げる川口冬弥【写真:竹村岳】
雄叫びを上げる川口冬弥【写真:竹村岳】

 延長10回は「タイブレーク」として、無死二塁から始まった。まずは育成助っ人のラミレスを変化球で空振り三振。中村貴、通算960安打の田中には四球を与えて1死満塁となったが、川口は冷静だった。「タイブレークで、球数も時間も使っていい場面。谷川原さんのリードも、打たれるリスクの低いボールを出してくれたので、それを信じて投げ切ることを一番に考えていました。四球を出したのも焦りはなくて、塁は空いていたので」。

 ここからもう1度、ギアを上げた。久保を空振り三振に仕留め、高卒3年目の清水を打席に迎えた。2ストライクから、最後は外角への直球で空振り三振。この日の44球目は、148キロを計測していた。「あそこは三振という要求ではなくて1つ外そうという意図だったんですけど、危ないボールでした。『投げミスだったね』という話は谷川原さんとしました」と、反省も忘れなかったが、熱いガッツポーズはチームにも影響を与えたはずだ。球場全体に響くほどの雄叫びは、感謝の思いが表れていた。

「自分がそもそもプロ野球の2軍のマウンドに立てていることが、奇跡なので。与えられたチャンスで、全力でやるというスタンスはハナマウイ(社会人時代)から変わっていないです」。高校時代、3年間で1度も背番号をもらえなかった。ここまでこられたのは、川口が自分自身を終わらせなかったから。支配下登録という目標まで、一歩ずつ進んでいく。

(竹村岳 / Gaku Takemura)