自分の価値「自分で下げていた」 三盗失敗の翌日…野村勇が救われた小久保監督の言葉

2号ソロを放った野村勇【写真:古川剛伊】
2号ソロを放った野村勇【写真:古川剛伊】

2号ソロの感触は自画自賛「完璧でしたね」

 自主トレをともにした師の存在、そして小久保裕紀監督の言葉に背中を押された。失敗をしてしまい、うつむくような姿はもうない。プロ野球選手として、どんどんたくましくなっているところだ。ソフトバンクは4日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)に5-3で勝利。一時勝ち越しとなる2号ソロを放ったのが、野村勇内野手だった。

 同点の5回無死。登板したばかりの2番手右腕・木村の初球を振り抜いた。左翼ポール際への着弾を見送り、ようやく表情が緩む。「迷いなくいきました。高く浮いたやつは全部いったろうと思っていました。完璧でしたね」と感触は十分だった。ここまで17試合に出場して打率.389、2本塁打。課題だった確実性も向上し、遊撃のスタメンを掴み続けている。

 痛恨すぎる失敗も経験した。1日の日本ハム戦、1点を追いかける8回2死一、二塁。二走だった野村は三盗を仕掛けたが、動きに気づかれてタッチアウトに。「絶対にアウトになってはいけない場面」でチャンスを潰してしまった。連敗を止められず、一夜が明けた翌2日。練習前に、小久保監督から声をかけられた。

「こっちがサインを出しているから。いろいろ映像も見て、データがある上で出しているから、そこはOKや。ビビらんといけよって話をされました」

 小久保監督も、こう明かす。「いつでもいっていい(スタートを切っていい)というサインが出ているときに、いかない選手じゃ逆に困るよという話はしました。アウトになった責任は俺にあるので。お前が感じる必要はないと伝えました」。野村が持つスピードには、首脳陣も大きな信頼を抱いている。痛恨の失敗となってしまってもとがめることなく、ただ背中を押した。

1日の日本ハム戦で盗塁死…映像を見返して感じたこと

 1日の夜、野村なりに映像も見返したという。相手投手のモーションについてはしっかりと頭に入れて、仕掛けた。準備はぬかりなかったからこそ「タイミングは完璧でした。絶対にアウトになったらあかん場面だったので、それならいかんかったらよかったんかなとかも思いましたけど。ちょっと早かったり、映像で見て『自分で考えているよりも早くいっちゃった』とかならあれでしたけど、それでもちゃんと完璧だったので」と胸を張った。

1日の日本ハム戦で三盗に失敗した野村勇【写真:古川剛伊】
1日の日本ハム戦で三盗に失敗した野村勇【写真:古川剛伊】

 指揮官の言葉で「救われましたね。気が楽になりました」という2日のロッテ戦。前のめりな姿勢は何も変わっていなかった。3点を追う初回、先頭打者として内野安打で出塁する。1死となり、打席に栗原陵矢内野手を迎えた場面だ。3球目、明らかにモーションを盗み、盗塁を仕掛けようとしていた。結果的に併殺打でチャンスは広がらなかったが、大切な“勇気”を失っていない何よりの証拠。「あれはスタートがよすぎて、ビビりました。『うわ』って思って、きのう(1日)のあれがあって、止まっちゃいました」というが、チームを鼓舞するかのように積極性を見せている。

今宮健太からは何度も「今年やらなクビやぞ」

 今年1月、今宮健太内野手と自主トレをともにした。球界屈指の名手から「芯がない子」とも表現されたが、同時に圧倒的なポテンシャルを秘めていることも認められていた。「『お前、今年やらなクビやぞ』っていうのは何回も言われていました。消極的なことが多かったので『迷ったらいけ』、『ボールに対しても入っていけ』って」。競争に敗れれば、去っていくしかない世界。覚悟が強く決まったのは確かだ。

「いい結果が続いていなかったら、そう(消極的に)なりがちだったので。そこは自分でもわかっていたし、そうなると自分でも自分を下げてしまっていた」。今季からは伴元裕メンタルパフォーマンスコーチがチームの一員となった。3日からはベンチ入りできるようにもなり、野村も日々、会話を重ねているという。「やることが明確になる、頭の中がすごくスッキリする感じです」と、ここでも背中を押してもらっている。

 2025年、新しい野村勇を見せ続けている。「(積極的に)なれていると思います。かかりすぎなくらい、いきすぎだとは思いますけど」。きっとそれくらいの姿勢を、首脳陣も求めているはず。今年こそ、ホークスにとって絶対に欠かせないピースになる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)