リハビリ組の時間は「すごくいい雰囲気でできた」
地道な日々の中で、ともに復帰を目指す存在がいた。前を向けたのは、同じ“約束”を交わしていたからだ。4月17日から1軍に復帰した栗原陵矢内野手は、ここまで12試合に出場して打率.286、1本塁打、4打点(5月1日時点)。主に3番に座り、チームの中心選手としてグラウンドに立っている。リハビリ組で春先を過ごした中で「大きかった」と感謝する存在が、同学年の上茶谷大河投手だ。
3月11日、巨人とのオープン戦でのプレーだった。三塁ファウルゾーンに舞った飛球を追いかけ、スライディングをしながらフェンスに激突。右脇腹を痛めて、開幕に間に合わなくなった。1か月以上、ファームでの時間を過ごすことになったが「かみちゃ(上茶谷)を筆頭に若い選手が、話しかけてくれましたし。なんかすごくいい雰囲気でリハビリはできました」と振り返る。
もともとクセのある髪質の栗原。もさもさと、かなり伸びてきた4月上旬、栗原は「かみちゃと約束しているんです」と明かした。それはリハビリ組を卒業するまでは、髪を伸ばし続けるというものだった。
上茶谷が経緯を語る。「『俺ら髪の毛やばない?』『鳥の巣やん』って話をしていて。なんかわからないですけど、切らんとこってなりました」。2月14日に右肘関節クリーニング術を受けた右腕。最後に髪を切ったのはそれよりも前で「もう2か月くらい伸ばしていますね。次は絶対、めっちゃ短くします」と苦笑い混じりに話す。
昨年12月の現役ドラフトでDeNAから移籍してきた上茶谷。同学年ではあるものの、栗原との具体的な接点はなく、「薄っぺらい関係でしたね。こっちにきてから仲良くなりました」という。ホークスには松本裕樹投手、藤井皓哉投手、野村勇内野手をはじめ、スタッフにも1996年世代は多い。栗原と上茶谷の距離が縮まったのはリハビリ組という共通点はもちろんだが、2人の“明るさ”が大きな理由だ。
甲斐野央や泉圭輔も含めて「同じ種族」
「“種族”が一緒なので。(甲斐野)央とか泉(圭輔)もそうですけど、ふざける、ちょけるじゃないですか。マツとか皓哉はクールな感じかもしれないですけど。そんな雰囲気を持っているのが同じ種族だなって」
プライベートでも、多くの時間をともにした。上茶谷の自宅を栗原や重田倫明広報らが訪れ、息抜きがてらにゲームを楽しんだこともある。負けず嫌いが勢揃いする1996年世代。当然、ゲームでも全力勝負は変わらなかったという。
栗原が1軍昇格する前夜も一緒にいたという右腕。その時点ではまだ髪は切られておらず「だから(昇格した)当日に切ったんじゃないですか?」と推測していた。4月17日の楽天戦(みずほPayPayドーム)で今季初スタメン。6回に中前打を放ったが、上茶谷はその瞬間にテレビの前を離れていたという。「わざわざ(家族が)言いに来てくれました。『打った打った! ヒット!』って(笑)」。ぐっと距離が縮まった栗原の存在を見ながら、右腕もマウンドに立つ日を目指している。
2か月半以上、髪は伸び続けている。比例するように右肘の状態も少しずつ上向き、力強いボールが投げられるようになってきた。「今はちょっと寂しいですね」と口にするものの、いつもリハビリ組を明るく盛り上げている上茶谷の背中を後輩たちも必ず見ているだろう。次に“くりちゃたに”が再会するのは、必ず1軍の舞台だ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)