痛恨の盗塁死…なぜ野村勇は勝負をかけた? コーチが絶賛した行動「『やれ』って言っても…」

盗塁死した野村勇【写真:古川剛伊】
盗塁死した野村勇【写真:古川剛伊】

8回に野村勇が三盗狙うも…痛恨の盗塁死

 思わずヘルメットをグラウンドに叩きつけた。ミスをしてはいけない場面だったことは、本人が最も分かっていた。「確信を持って行ったんですけど……」。野村勇内野手は悔しさを滲ませた。

 5月1日にみずほPayPayドームで行われた日ハム戦。1点を追う8回2死一、二塁で、二塁走者の野村は三盗を狙ったが、わずかにスタートが早かった。その動きに気付いた河野が牽制球を送ると、あえなく二、三塁間に挟まれてタッチアウト。好機を逸したホークスは9回もスコアボードにゼロを刻み、今季最長タイとなる5連敗を喫した。

 同点に追いつくチャンスが一気に潰えた、痛恨の走塁ミス。球場からはため息が漏れた。ただ、試合後の野村の表情には悔しさとともに、どこか納得したような様子も見られた。その後、取材に応じた本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチは「見事というか、素晴らしいところ」と野村のプレーを評価した。単に選手を擁護したのではなく、確固たる理由があった。

 野村が振り返る。

「山川さんの時は外野が下がってたので、ヒット1本で返れたんですけど。2アウトになって晃さんの打席で外野が結構前に来ていた。1本で返れない状況だったので、なんとか次の塁に進んで、ヒット1本で1点っていう形にしたいなと思ったんですけど……」

 ベンチから出されていたサインは、野村に判断をゆだねた「グリーンライト」だった。試合前には今宮健太内野手が右前腕屈筋群の筋挫傷で登録抹消。開幕戦でスタメンに名を連ねた野手のうち、山川穂高内野手以外が不在という“異常事態”で迎えた一戦だった。初回に2点を先制したが、2回以降はゼロ行進。なんとしても1点が欲しい場面。初球から覚悟を決めて、スタートを切った。

確信のスタートだったが「長かったですね」

 試合前から本多コーチとともに相手投手の映像を確認し、綿密な準備を重ねていた。タイミングは掴んだつもりだったが、1秒にも満たない中での判断が命取りとなった。「確信を持って行ったんですけど、ちょっと(相手のセットが)長かったですね。さっきまでそのタイミングやったのにみたいな……」。

ヘルメットを叩きつけ地面を見つめる野村勇【写真:古川剛伊】
ヘルメットを叩きつけ地面を見つめる野村勇【写真:古川剛伊】

 勝負に出たが、結果は裏目となった。タッチアウトとなった野村はヘルメットを叩きつけ、しばらくの間うつむいた。それでも本多コーチは、野村の決断と勇気を称えた。

「ことを起こす気持ちが強いかどうか。起こしたいという気持ちがあるから一発目で(スタートを)切ることができる。あの勇気が大事。ことを起こそうと思った勇気ですよね」

本多コーチ「『よしっ』って言える」

試合前、本多雄一コーチと研究する野村勇(右)【写真:古川剛伊】
試合前、本多雄一コーチと研究する野村勇(右)【写真:古川剛伊】

 失敗が許されない場面であることは誰もが理解していた。だからこそ、スタートを切る難しさは並大抵のものではない。非難されるリスクもあった。しかし、連敗が続くチームの流れを変えるには、誰かが勇気ある“勝負”をしなくてはいけなかった。野村の走塁には、その覚悟が滲んでいた。

 本多コーチは続ける。「それを『やれ』って言っても、やれない人もいるんです。気持ちが整っているからこそ、戦闘態勢になっているからこそ、『よしっ』って言えるんですよ。そこは見事だし、素晴らしいところだなって思います。『行くぞ』と言っても、不安げな顔をしている部下がいたら、こちらも不安ですよね。そういった意味では、1球目から勇気ある行動を取ってくれたと思います」

 自信があったからこその、紙一重のプレー。その自信は準備をしているから生まれているものでもある。この日、野村は今季初スタメン。打席に立つのは決勝ソロを放った4月11日のロッテ戦(ZOZOマリン)以来だった。長いブランクはあったが、前日には「トラジェクトアーク」と呼ばれる打撃マシンを相手先発の古林の特徴に合わせて打ち込んだ。その成果もあり、マルチ安打をマークした。

 打席でも走塁でも準備を欠かさなかった。だからこそ、野村は試合後「これからも攻めます」と迷いなく言い切ることができた。本多コーチも「そういう気持ちは忘れてほしくないです」と願う。最下位に沈むチームが守りに入っていては、現状を打破できない。たとえ結果が出ていなくとも、勝負を重ねるその姿勢がいずれチームに転機をもたらすはずだ。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)