全力投球の「ビジョンが湧いていない」 手術から1年も…武田翔太が今抱く苦悩を吐露

武田翔太【写真:竹村岳】
武田翔太【写真:竹村岳】

トミー・ジョン手術から9日で1年「長かった」

 初めての道のりを歩んでいる。そこに得意げな表情はなく、率直な思いを吐露した。「やっぱり悩みますよ」。手術から1年が経ち、武田翔太投手は復帰に向けて段階を踏んでいる。

 2024年4月9日、横浜市内の病院で「右肘内側側副靭帯再建術および鏡視下肘関節形成術」、いわゆるトミー・ジョン手術を受けたことが発表された。同年は、キャリアとしても初となる1軍登板なし。リハビリは今も続いており、1年という歳月も「めっちゃ長かったですね。その日(今年の4月9日)は1か月に1回の検診でまた横浜の病院に行っていて、気づいたら過ぎていました」と振り返る。

 手術が発表された当初も、競技復帰までは1年以上がかかる見込みだった。現状については「波がありながら、です」という。武田なりに感じている苦悩を打ち明けた。

「感覚と、なかなか合わないですね。ズレがある感じがします。右手首から腱を取ったんですけど。肘自体、どんどん出力を上げていく中で波を感じる。上げたらやる(怪我をする)から、無理せずにやっている感じです。アクセルも踏んでいるけど、片足ではブレーキを踏む意識を忘れないように」

 長期のリハビリにおいて、状態は右肩上がりを描くばかりではない。時には意図的にペースを落とすことも必要だ。「割と落としている感じかな。今ちょっと波を作りながら、上げていかないと」。前のめりでいればいい、というわけでもない。気持ちとしても、もどかしさがあることは認め「早く投げたいなっていうのはあるけど。まだちょっと、全力投球するビジョンは湧いていないですね」と続けた。

起きた瞬間にわかる「きょう雨降ってるな」

 最も変化を感じるのは、やはり天気だという。特に曇天や雨による「低気圧になるとよくないです。朝、ベッドで目が覚めたら『きょう雨降ってるな』って見なくてもわかります。むくんでいる、に近い感覚です」というほどだ。「傷が治っても、違う組織なんです。カバンを切って、その中身まで縫い直している感じ。表だけが治ったらOKじゃなくて。中の組織まで治さないといけないし、切った深さでも全然違うので」。メスを入れたことを、改めて実感するような日々だ。

 同じ手術を経験した先輩はたくさんいる。和田毅球団統括本部付アドバイザーも、その1人だ。「和田さんも、状態には波があると言っていましたし。可動域とか、ちょっと動かせなくなるとか、術後のことも聞いていました」。一方で長谷川威展投手、澤柳亮太郎投手ら、武田の後にトミー・ジョン手術を受けた若鷹もいる。しかし、右腕は「僕もちょっと、試行錯誤だからなんとも(後輩には)言えない」と口をつぐんだ。その言葉に、偽らざる苦悩が隠されていた。

「やっぱり悩みますよね。体が言うことを聞かないっていうのはね。神経だったり、筋肉だったり、もう中身の問題だから。1個ずつ潰していくしかない。毎日、朝起きてから『きょうはこっちの張りが強いな』とか確認するところから始まるし、だから毎日早くきて練習しています」

次々と後輩が同じ手術も…助言は「なんとも言えない」

 毎日、午前4時30分には起床。6時には筑後を訪れ、トレーニングを始める。「その方が集中できるからね」と、1人の時間を大切にするところも武田らしい。「『1年で復帰する人は本当に珍しい』って、ドクターも言っていましたし。どうしても2年は違和感が残るとは言われている。その中でも投げていくしかないです」。しっかりと時間をかけながら、右肘との関係性を日々、新しくしていきたい。

「投げたい気持ちもありますけど、慎重にやっていくしかないですね」。悩みもつらさもたくさん経験し、その度に乗り越えてきた。不死鳥のように、必ずもう1度、蘇る。

(竹村岳 / Gaku Takemura)