本人が明かすマウンドでの会話
随所で際立つ存在感だった。1-2で敗れた29日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)。同点で迎えた9回、マウンドには守護神のロベルト・オスナ投手が上がった。しかし、四球と送りバントで2死二塁のピンチを招くと、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)がマウンドへ向かった。
主に投手への声かけや指示のためだが、マウンドの輪の中では二塁を守る川瀬晃内野手と倉野コーチが言葉を交わす場面が見られた。緊迫したシチュエーション。川瀬だからこそ伝えることができる“大事な確認”がそこにはあった。その会話の内容について、本人が明かした。
「逆方向の当たりのことです。バッターが伏見さんだったので」
次打者の特徴を踏まえ、川瀬は守備位置を二遊間寄りに取ることを想定していた。その上で、「僕はセンターラインに寄っているので一、二塁間の当たりは、おそらくファーストが出てくると思います。なので、オスナには一塁のカバーをお願いします、と伝えてもらいました」と、具体的なプレーの連係について倉野コーチに進言していた。
結果的にはオスナが伏見を三振に斬って取り、ピンチを脱した。だが、この機転の利いたプレーへの備えに、奈良原浩ヘッドコーチは「やっぱり視野が広いよね。野球勘がレギュラーに近い。スタメンでずっと出ているわけではないけど、限りなくそっちに近い」と評価。常に試合を観察し、状況を把握しているからこそ出せる指示だったと舌を巻いた。
好判断を確信に変えた今宮の声
守備での貢献は、この場面だけではない。1点リードで迎えた7回無死一塁。万波が放った右中間への打球で、クッションボールを処理した柳町達外野手からのボールを中継し、矢のようなストライク送球で一塁走者の生還を阻止した。深い位置からだったがノーバウンドでの送球だった。
「もう抜群だったよ。あれはギリギリのプレーだったから。もちろん(柳町)達がしっかりとカバーして、海野(隆司捕手)のタッチも上手だった。結果的には負けてしまったけど、勝っていたとするならば、ものすごく大きなプレーだった。流れも変わるし、やっぱり頼りになるよね」。奈良原ヘッドコーチが絶賛するほどのビッグプレーだった。
川瀬自身、難しい中継プレーを「飛んだ瞬間からバックホームだ」という意識で臨んでいたという。そして、その好判断を確信に変えたのが、もう一人の名手の声だった。「今宮(健太内野手)さんの声も聞こえていて、その声のおかげでホームに投げる準備ができました」と、遊撃を守る今宮の的確な指示も、完璧な中継プレーにつながったことを明かした。
試合には敗れたものの、随所で見せた川瀬の好守と野球脳は、チームにとって欠かせないピースであることを証明した。
(飯田航平 / Kohei Iida)