若手を驚かせた姿勢…「クリさんは自分から」
1軍で確固たる地位を築く先輩の細かな所作から学んだものは、これ以上ない財産となった。16日に行われた徳島インディゴソックスとの3軍戦(タマスタ筑後)。右脇腹痛からの復帰を目指し、調整のため出場した栗原陵矢内野手が5回に右翼へ2ランを放った。この一打に誰よりも驚いたのが、ドラフト5位ルーキーの石見颯真内野手だった。
「二塁ランナーだったんですけど、タッチアップぐらいの打球だと思ったんですよ。打球が高かったんで、ランナーコーチも『タッチアップ』って言ってて、備えていたら、スッて入ったんです。『え、それ入るの?』みたいな感じでした。本当にビックリしました」
3月11日の巨人とのオープン戦(長崎)でフェンスに激突した栗原。1軍出場に向け、3軍の試合で調整した数日は、共にプレーしたファームの若手選手たちにとって学びの連続だった。試合中の気づきはもちろんだが、何よりも衝撃だったのは試合以外での立ち振る舞いだった。「クリさんは自分から」――。2人の若鷹にとって『ホークスの中心選手になるためにはこうあるべきだ』と脳裏に焼き付けた大事な時間になった。
「栗原さんは自分からボール拾いをしてくださっていたんです。『全然自分たちがやるんで』みたいな感じだったんですけど、『一緒にやろう』って。めっちゃ拾ってくれたんです」
高卒1年目の石見が抱いていたイメージは、1軍の主力選手が3軍で調整するときなどは、自分のことだけに集中しているのだろうというもの。ところが、想像していた「ベンチ裏でゆっくり準備している」ような姿はなく、球拾いを率先して行う栗原がそこにはいた。その謙虚さと献身的な姿勢に「野球もですけど、本当にもう人としてもすごいなと思いました」と感銘を受けた。
2日間だけの時間だったが、初日は栗原から「キャッチボールやろう」と声をかけられた。「イップスになりそうでした(笑)。もう緊張しすぎて、腕が振れなくなってしまって」。それでも貴重な時間から何かを得るために、翌日は「栗原さん、キャッチボールお願いします」と、石見からキャッチボール相手に名乗り出た。
「キャッチボール1つにしても、胸にしかこないですし。いろんな方法とかも考えてやっているのが伝わってきました。そこはもう肩慣らしだけじゃないよっていうことは感じました」。栗原の一挙手一投足から目を離すことができなかった。その1つ1つに、1軍で結果を出す選手の思考が詰まっていると感じた。
栗原の後ろで見た“本物の準備力”
この日の試合前に声出し担当を任された藤田悠太郎捕手は、「栗原さんの次の4番です。光栄なことだと思っています」と大きな声を出した。「4番・指名打者」で出場。栗原の次の打者になれたことからも大きな学びがあった。
「ベンチの中からすでに試合に入っているというか。ピッチャーが投げるのをずっと見ていて、タイミングを取っていたので。“ネクストのネクスト”をしているみたいでした。打席でも、甘い球が来ても待っていないから反応しないんですよ。その余裕と経験はすごく感じました」
栗原自身も「すごく元気あるし、一生懸命。自分ももっともっと、その気持ちを持ちながら1軍でできたらなと思います。純粋に野球というものを楽しんでる姿っていうのと、一生懸命やってる姿っていうのは忘れちゃいけないなっていうのは思いました」と若鷹から刺激を受けたことを素直に明かした。
栗原が3軍に合流した2日間は、ファームにいる選手にとって計り知れない財産となったはずだ。技術、思考、そして人間性。そのすべてを吸収しようと必死だった。石見は最後にこう誓った。「栗原さんと一緒に野球ができるまでぐらいには。ドームで一緒にやれるように頑張ります」。最高のお手本から受けた強烈な刺激。1軍での共演を夢見て、成長を続けていく。
(飯田航平 / Kohei Iida)