「なぜ中村晃は何億ももらっているのか」 大道コーチが若鷹へ問い…伝えた“生き残る術”

大道典良3軍打撃コーチ【写真:川村虎大】
大道典良3軍打撃コーチ【写真:川村虎大】

3軍ナインに問いかけた打席での工夫の必要性

 意識の変化が結果となって表れてきている。ホークスの3軍は24日の群馬ダイヤモンドペガサス戦に10-4で勝利した。4月に入り、5度目の2桁得点。3月とはまるで別のチームのように打線がつながっている。

 斉藤和巳3軍監督は、4失策を喫した守備面に反省を促しつつも「追い込まれてからの対応は全体的に良かった」と打撃面を評価した。なぜ打線は変わりつつあるのか――。試合後のミーティングで、大道典良3軍打撃コーチがナインに投げかけた言葉があった。

「なぜ中村晃は何億ももらっているのかわかるか? 本塁打もそこまでなくて、打点も毎年30〜40。それでも小久保監督からの信頼は厚いのは何でだと思う?」

 大道コーチが例として挙げたのは、35歳のベテランの“出塁能力”だった。2014年に176安打を放ち、最多安打のタイトルを獲得したが、シーズン2桁本塁打は2018年(14本塁打)の一度のみ。打率も2015年を最後に3割から遠ざかっているが、中村の凄みは選球眼と三振の少なさだ。

中村晃【写真:古川剛伊】
中村晃【写真:古川剛伊】

 株式会社DELTAのデータによると、四球に対する三振数の割合を示すBB/Kは2015年が1.40、2016年が1.87でリーグトップ。通算出塁率も.361と高い数字を誇る。大道コーチが伝えたかったのは、出塁への意識を高めることだった。

無安打でも評価した21歳「なんかしてるな」

「チーム単位で1軍から4軍まで2ストライクアプローチっていうことをずっとやっているので。追い込まれるまでは自分のスイングをして、追い込まれてからしつこく粘るっていうのは、今できているので。それを続けていきたいなと思います」

 中でも評価したのは「9番・捕手」で出場した21歳の加藤晴空捕手だった。安打こそでなかったが、3つの四球。8回の第4打席では、2ボール2ストライクから2球ファウルで粘り、8球目に四球を選んだ。

「こっちが見て『こいつなんかしてるな』っていうのが今見えてきたのでね。追い込まれてからノーステップにしたり、2ストライクから粘って四球を選んだり。そういうことができていたと思います」

大道コーチの現役時代…バットを短く持った理由

 大道コーチ自身は現役時代、極端にバットを短く持って、追い込まれてからも粘り強く逆方向に打つ打撃が持ち味だった。ただ、1987年ドラフト4位で入団した当初はパワーヒッターとして長打が期待されていた。

「最初、長距離砲として(ホークスに)入ってね、全くダメで。変化球が打てずにどうしたらいいかってことで、手っ取り早くやったのがバットを短くもつことだった」

 当時は今のようにスキルコーチもおらず、動作解析などもない。厳しいプロ野球で生き残るために自ら長打を捨て、右方向への打撃に徹した。「若い時はね、なかなかできなかったですけど」。規定打席に到達したのは1997年のみだったが、晩年まで代打の切り札として活躍。22年のプロ野球生活を全うした。

 選手として1年でも長くプレーしてほしい。そのための手段の一つが出塁率だ。「同じ凡打でもピッチャーに1球でも投げさせたり、ファウルで粘ったりとか、そういうことが必要」。派手さはないが、価値あるプレーがプロで生き残る術になることを大道コーチは知っている。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)