板東の言葉に「感動しちゃう」 2か月続く“共同作業”…ド緊張も、川口が急接近した日

キャッチボールをする板東湧梧(右)と川口冬弥【写真:竹村岳】
キャッチボールをする板東湧梧(右)と川口冬弥【写真:竹村岳】

距離感が縮まったのはキャンプ初日だった

 キャッチボール姿さえも絵になる2人だ。心地よい音を響かせていたのは板東湧梧投手と川口冬弥投手。立場は違えど、ともに1軍の舞台を目指す右腕。急接近した舞台裏に迫った。

 板東は2018年ドラフト4位で入団。2021年には自己最多の44試合に登板するなど、経験を積んできた。昨シーズンは1軍登板なしに終わり、今も必死に復活のきっかけを探している。川口は2024年育成ドラフト6位で、四国IL徳島からホークス入り。最速155キロの直球を武器に、ウエスタン・リーグでは7試合に登板して防御率0.00だ(25日現在)。

 2人は1月下旬にファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」で顔を合わせていたが、距離感が縮まったのは2月だ。ともにB組で迎えた第1クール1日目。恐る恐る、川口から声をかけた。

「『キャッチボール相手いますか?』『お願いします』って。自分、新人でも年寄りじゃないですか。相手がいなかったんですよね。大卒は大卒で組んでやるし。人見知りなんですけど、自分から声をかけました」

 今年10月に26歳を迎えるオールドルーキー。初めての春季キャンプで周囲との距離感を探っていた中、勇気を出して声をかけた相手が板東だった。「自分に友達がいなかったからです。キャンプ初日の室内練習場でした。それまでは新人合同自主トレで練習相手も同期だったので、自分からしたら初めてキャッチボールする相手。めっちゃ緊張しました」。

4月を迎えた今も、2人は一緒にキャッチボールをしている【写真:竹村岳】
4月を迎えた今も、2人は一緒にキャッチボールをしている【写真:竹村岳】

板東も驚き…川口のキャリアは「並大抵ではない」

 4月を迎えた今も、2人は一緒にキャッチボールをしている。プロ7年目の板東は「めっちゃフォームのことを考えるのが大好きで、僕のことも考えてくれる。聞いたらいろいろ引き出しもあるし、野球大好きって感じです」と川口の印象を語る。感じ取ったのは、ここまでの道のりが平坦ではなかったということだ。

「ストライクすら全く入らない時期(の映像)も見せてもらったので。馬力はめっちゃあると思ったんですけど、並大抵なものではなかったんだろうなと思いました。最初、そんなふうには思っていなくて『ただすごいやつだな』と思っていたんですけど、話していたらさらにわかったというか。自分で積み上げてきたものがすごくあるんだなって思いました」

 先輩が刺激を受けていることを伝えると、川口も「えええ!? 感動しちゃうんですけど!? そんなことを思ってくれているんですか!」と驚きを隠せない様子だった。

高校時代は1度もベンチ入りできず「本当の補欠」

 東海大菅生高時代の川口は1度も背番号をもらえなかった。「高校の時は球速が何キロか、測るレベルにもないくらい補欠でした。指導者も誰もプロに行くと思っていないくらい、本当の補欠で。野球をやめてもおかしくない人だったので」。城西国際大で150キロに到達したが、右腕いわく体重を増やしたという単純な理由だったという。「その次の次の試合くらいで肘を怪我しました」と、確かな技術はなかなか身に付かなかった。

「そこからメカニックを勉強するようになって今に繋がっています。ハナマウイの時に投手コーチだった人が、パーソナルでジムもやっていてフォームの指導もされている方で。その方と出会ってから、ガラッと変わりました」

 板東は後輩右腕の距離感に「ずっと近いですけどね。面白いやつですし。人見知りもしなくて、話しかけてくれる。僕もそんなガツガツいけるタイプではないので、ありがたいです」と笑顔で話す。川口も「育成の僕からも『教えて』って吸収しようとしてくれます。自分も自分で、へたくそだったけど勉強してきたトレーニングもあるから、お互いの知識の擦り合わせじゃないですけど、そんな時間はめっちゃ楽しいです」と、信頼を寄せる存在だ。

「あと板東さんは、髪を切ったこととかすぐ気づいてくれます」。共通しているのは、野球が大好きだという気持ち。いいピッチャーになりたいという純粋な思いを胸に、それぞれが努力を重ねていく。

(竹村岳 / Gaku Takemura)