まだ3打席の野村勇を「使いたい」 打撃コーチが提案…緊急事態が生んだ”活かし方”

左翼の守備練習をする石塚綜一郎(左)と野村勇【写真:古川剛伊】
左翼の守備練習をする石塚綜一郎(左)と野村勇【写真:古川剛伊】

首脳陣も期待する「オプション」

 首脳陣の明確な意図がそこにはあった。25日に楽天モバイルパークで行われた楽天戦。その試合前練習でレフトの守備位置に就き、マンツーマン指導を受ける選手がいた。見慣れないポジションで打球を追っていたのは野村勇内野手。チームの主力に故障者が相次ぐ緊急事態の中、現状を打破するための一手となるのか。23日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)では周東佑京内野手が右足に死球を受け途中交代し、25日の楽天戦では欠場。チームは勝利したものの苦しい状況であることに変わりはない。

「一応練習しておいてというか。本当に念のためにっていうだけです。怪我人がたくさん出ているので」

 こう語るのは野村だ。明確な意図は伝えられてはいないようだが、自身はあくまで緊急時に備えたものと受け止めている様子。しかし、首脳陣が本職ではない守備位置で練習をさせている背景には、野村の現状を最大限に活かすための狙いが隠されていた。

「バッティングの状態が最近ずっと良くて、いい取り組みをしているので。『外野手起用も視野に入れて使いたいんです』という提案をしました」

 その発端は、村上隆行打撃コーチによる「提言」だった。柳田悠岐外野手、近藤健介外野手、正木智也外野手ら主力が離脱する苦しいチーム状況とは対照的に、内野の布陣は充実しているといえる。牧原大成内野手も中堅で出場させるだけの戦力が現状の内野陣にはある。そんな中で野村の打撃力を眠らせておくのは惜しい。それを生かすための“プランB”だった。

打撃への手応えと静かな意欲

 野村につきっきりで指導していた大西崇之外野守備走塁コーチは「本人もやったことがあるって言ってたから。今は故障者も多いし、いざという時のための準備。練習で景色と打球にも慣れるというかね。ちょっとずつやっていきます」と説明。「足も、肩もいいですからね」と、野村の身体能力にも期待を寄せた。

 奈良原浩ヘッドコーチも「内野だけに限らず外野もできた方が出場の機会が増えるし、選択肢も広がるでしょう。その考えが前提ではあります」と話す。単なる緊急対応だけではなく、今後の起用法の幅を広げる前向きな“準備”としての側面もある。

 今季はこれまでに10試合に出場しているが、打席には3回しか立っていない。それでも、本塁打を含む2安打を放っている。「試合に出てみないと打撃の感覚は分からない」としつつも、バットへの手応えはある。「悪くはないです」と明るい表情で語る様子からは、現状への自信と出場機会を求める静かな意欲が感じられた。

 過去には2022年と2023年には1試合ずつ左翼での先発出場した経験がある。当時の起用とは状況が異なるが、打撃コーチが「使いたい」と提言し、首脳陣も選択肢として認識した野村勇の外野起用。26日以降の試合で名前がどこに並ぶのか――。野村を“生かす道”に注目したい。

(飯田航平 / Kohei Iida)