今季初アーチに見せた笑顔…その裏にある覚悟
開幕から苦しい時間が続いていた。久しぶりのスタメン出場。その1打席目に放った打球は、大きな弧を描いてライトスタンドに飛び込んだ。このアーチに喜びを爆発させたのが柳町達外野手だ。23日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)に「7番・左翼」でスタメン出場。試合前時点で、打率は.118。鬱憤を晴らすかのような快音にスタンドは沸いた。
「いい角度で上がったんで、『頼む入ってくれ』って思っていました」。今季1号の後も快音は止まらない。第2打席は左前打、第3打席には右中間を破る適時二塁打を放ち、3安打2打点の活躍でお立ち台に上がった。
数字が物語る通り、状態は決して良くはなかった。結果を出せていないこと、出場機会が減っていたことへの悔しさを抱かないわけがない。これまでの日々を淡々と語るが、その表情の奥には“揺るがぬ覚悟”があった。
「別に結果がどうこうじゃなくて、ただの自己満かもしれないですけど、その自己満が一番大事なのかなとも思います」
そう話す柳町の言葉は深い。柳田悠岐外野手、近藤健介外野手の離脱。さらに、正木智也外野手も左肩の亜脱臼で登録を抹消される中で、柳町がスタメン出場したのはこの日で5試合目だった。その間には山本恵大外野手が支配下登録され、スタメン出場することもあった。
主力が離脱も…スタメン出場は5試合目
「こればっかりはもう勝負の世界なんで何とも言えないんですけど。そういう場面でも頑張ることに意味があるんじゃないかなと思っていました、僕は」。2023年シーズンで116試合に出場するなど、レギュラー格として活躍した年もあるだけに、自身の中では納得がいく成績ではないことは明らかだった。
それでも限られたチャンスで結果を求めていかなくてはならない。「打撃の見直しだったり、ウエートトレーニングだったりっていうところは、欠かさずやっていたかなと思います」と、これまでの日々を振り返る。“自己満足”できるぐらいのことは人知れずやってきた。その成果を発揮できたからこそ見せた満面の笑みだった。
「結果に左右されずに。それこそ第三者の評価を気にしながらじゃなくて、自分のやることをやる。それでダメならもう仕方ないって割り切るくらいの。自己満ができれば一番強いんじゃないかなと思います」。結果や評価は関係ない――。自分が納得できると思えることをやれているのか。その軸で日々を積み重ねていく。
「1本出て、正直ホッとしてます」
その一言にすべてが込められている。自己満足が「一番強い」と言い切る言葉には決意がにじむ。ブレずに、ただ黙々と歩む姿。柳町がこの日に見せた笑顔が、ここまでの苦悩と、それを乗り越えた一打の価値を物語っていた。
(飯田航平 / Kohei Iida)