代走で初球スチール…「きょうは絶対に」
完璧なスタートを切れた背景には、周到な準備と勇気があった。22日に行われたオリックス戦(みずほPayPayドーム)で、野村勇内野手が気迫のこもったヘッドスライディングでチャンスを広げた。緊迫した場面での代走出場だったが、ベンチの期待に応える完璧な盗塁を決めてみせた。
8回裏、1点ビハインドの場面で先頭の栗原陵矢内野手が安打で出塁すると、代走として野村がコールされた。マウンドにいたのはオリックスのペルドモ。野村は初球から迷うことなくスタートを切ると、見事なスライディングで二塁を陥れた。
だが、この盗塁には大きなプレッシャーが伴っていた。状況は無死一塁、打席には4番の山川穂高内野手。一発が出れば逆転となるため、盗塁死するリスクは極力避けたい局面だった。重圧のかかる場面で、なぜ完璧なスタートを切れたのか。そこには確かな理由があった――。
「4番でしたけど『走っていいよ』って言われたんで。サインが出て初球から狙っていました。これまでも結構狙ってはいるけど、ちょっとビビって行けなかったりしていたので。きょうは絶対に初球から行こうと思って、狙い通りいけました」
野村は淡々と振り返った。昨季は盗塁を試みた際に塁審がアウトをコールしたが、一塁コーチャーの本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチがリプレー検証をベンチに要望し、判定が覆ったことがある。際どいタイミングだったにも関わらず、自らリプレー検証を求めなかった消極的な姿に対して、指揮官が「欲がない」と言及したこともあった。そんな中で過去の躊躇を振り払い、完璧なスタートへと繋げた。
“ペルドモ対野村”の構図…「状況は関係ない」
この盗塁について本多コーチは「ペルドモからは京セラドーム(10日)でも盗塁を決めているので」と説明。「(状況は)関係ないですね。4番でも9番でも」と続け、打順や場面ではなく、あくまで“ペルドモ対野村”という構図だったと強調。野村の脚力が上回る裏付けがあったからこその判断だった。
奈良原浩ヘッドコーチは、野村の勇気と準備を称賛した。「あれは勇気がいると思いますよ。ベンチの期待通りのスチールをするのって、そんなに簡単じゃないから」。その上で、思い切りの良さは事前の準備に裏打ちされたものだと分析する。
「『大丈夫、俺はこのタイミングだったら行ける』っていう根拠がないと、思い切りって出せないんですよ。試合が始まる前の段階で、準備していたっていう根拠があるから、いい結果に繋がっている」と期待通りのプレーを見せた野村を称えた。
首脳陣から高い評価を受けた野村だったが、同点で迎えた9回1死満塁の一打サヨナラのチャンスでは代打が送られた。「悔しさしかないです」と唇を噛む。それでも、得点には結び付かなかったものの大事な場面で盗塁を成功させたことで、またひとつ信頼を積み上げたことは確かだ。最後に味わった悔しさを糧に、次はバットでも信頼を勝ち取ってみせるつもりだ。
(飯田航平 / Kohei Iida)