近藤健介の離脱はどれだけ痛い? データが示す貯金減少”…重すぎる「7.0&.863」

腰の手術を受け、戦列を離れている近藤健介【撮影:冨田成美】
腰の手術を受け、戦列を離れている近藤健介【撮影:冨田成美】

近藤がフル出場していたら…成績を予測

 開幕カードでまさかの3連敗を喫し、スタートダッシュに失敗したホークス。しかし、それ以上の痛手が近藤健介外野手の離脱だ。近藤は開幕3連戦には出場したものの、腰痛で3月31日に出場選手登録を抹消された。その後、4月2日には腰の手術を受け、現在はリハビリを続けている。球団によると実戦復帰まで2~3か月を要する見通しだ。

 ホークスは開幕前の順位予想で「圧倒的戦力」と評価され、多くの野球解説者が1位を予想していた。しかし、シーズンが始まってみると主力選手が相次いで離脱。リーグ連覇を目指すチームに暗雲が立ち込めている。近藤ほどの打者が抜ける痛みは間違いなく大きい。では、その程度は具体的にどれほどのものなのだろうか。近藤の離脱がチームに与える影響の大きさを考えてみたい。

 離脱の影響を見積もるためには、近藤がフル出場した際にどの程度の成績を残すかを考える必要がある。DELTAでは、独自の成績予測システム「D-CAST」を用いて、選手が今後残すであろう成績を機械的に算出している。このシステムは、過去数年の実績をもとに基準となる成績を見積もり、そこに年齢や出場機会などの要素を加味して、最終的な予測値を導き出す仕組みだ。このシステムを用いて、近藤が今季マークすると見込まれていた成績を見てみよう。【記事量:2,400文字】

 まずは近藤がシーズン143試合にフル出場し、600打席に立ったと仮定する。このときの打撃成績は打率.287、18本塁打、OPS.863を記録するとの予測が出た。1軍復帰に3か月がかかり、6月末まで欠場した場合は、ほぼシーズンの半分となる71試合(4月1日から6月30日までに組まれている試合数)を棒に振る計算だ。そのため、フル出場した場合に仮定した600打席の半数にあたる300打席で、OPS.863の打者を失うことになる。


 ただ、この成績だけを見ても近藤の離脱がどれほど勝敗に影響があるのかは想像がつきづらい。そこで、選手の成績を勝利の単位に換算した「WAR」という指標を使って換算してみよう。WARとは、”Wins Above Replacement”の略で、ある選手が控えレベルの選手と比較して、どれだけ多く勝利に貢献したかを示す。たとえばある選手のWARが2.0であれば、控え選手が同じだけ出場した場合に比べて2.0勝分勝利を増やす働きを見せたと考えられる。

シーズン半分を欠場と仮定…失う勝利数は?

 このWARを用いて3か月分の近藤の成績を勝利に換算すると「3.5」。シーズン半分を欠場するということは、およそWAR3.5を失うということになる。つまり、単純計算で近藤が離脱し、控え選手と入れ替わるとホークスの勝利は3.5勝分も減少するということだ。

 3.5勝減るということは、敗戦の数も同じだけ増えることを意味する。つまり、差し引きで貯金が7つも減少する計算になる。シーズン半分の離脱でこれだけの影響が出るのだ。いかに近藤の存在が偉大かがわかるだろう。

 追い打ちをかけるように、4月11日には柳田悠岐外野手が自打球の影響で右足を負傷し、翌12日に登録を抹消された。復帰にはおよそ1か月を要する見込みだ。また、18日の西武戦(ベルーナドーム)で正木智也外野手がスイングした際に左肩を負傷。「左肩亜脱臼」と診断され、戦線離脱を余儀なくされた。オープン戦中に右脇腹を負傷した栗原陵矢内野手は17日の楽天戦(みずほPayPayドーム)で1軍復帰を果たしたが、ホークスに厳しい戦いが待ち受けていることは間違いない。

 柳田の実戦復帰が長引いたり、復帰したとしてもなかなか調子が上向かないようであれば、ホークスの貯金はさらに減少するかもしれない。

 ただ、先ほどの貯金が7つ減るという試算は、あくまでも近藤の代わりが控えレベルの選手とした場合の話だ。実際のところ、ホークス外野陣の層は非常に厚い。近藤の離脱以降は柳町達外野手や佐藤直樹外野手が起用され、まずまずの結果を残している。彼らが近藤の代役となるのであれば、一般的な控えレベルの選手よりも貯金の減少を抑えられるのではないか。そこで今回は、柳町と佐藤直がこれまで以上に出場機会を得て、近藤が本来立つはずだった300打席を2人で分担すると仮定してみよう。

“代役候補”として期待がかかる柳町達(左)と佐藤直樹【写真:栗木一考】
“代役候補”として期待がかかる柳町達(左)と佐藤直樹【写真:栗木一考】

2人“代役候補”でどれだけ穴が埋まる?

 元々出場するはずだった近藤のOPSは.863である。これに対し、柳町と佐藤直のOPSはどの程度と見込まれるのだろうか。D-CASTの予測データを見ると、今季の柳町はOPS.680、佐藤直はOPS.610と算出された。近藤と比べるとその差は歴然としており、柳町と佐藤の2人では、近藤の穴を完全に埋めるのはかなり難しそうだ。

 とはいえ、打撃成績の差だけでは勝利への影響がどれほどかを正確に把握するのは難しい。そこで再びWARを使って実際の勝利数に換算してみよう。近藤は3か月間の出場でWAR3.5が見込まれていた。この穴を柳町と佐藤直の2人で分担して埋めた場合、WARはどの程度になるだろうか。D-CASTの予測によれば、2人がそれぞれ150打席ずつ立つと仮定すると柳町はWAR0.6、佐藤直は0.4を記録する。合計するとWAR1.0だ。

 つまり、近藤であれば控えレベルの選手と比べて3.5勝分の上積みが期待できたところ、柳町と佐藤直では1.0勝分にとどまる。その差は2.5勝。貯金の観点から見ると、近藤が出れば7つ貯金が増えるはずのところが、柳町と佐藤直では2つしか増えない。近藤の欠場によって貯金は5つ減ってしまう見込みなのだ。

 このように書くと柳町や佐藤直の成績が低いように思えてくるが、そのようなことはない。彼らの成績は確かにレギュラーとしてはやや物足りないが、控え選手として見ればかなり優秀である。近藤があまりにも優れているからこそ、これほどの差がついてしまうのだ。

 ここまで見てきたとおり、近藤の離脱によるダメージは極めて大きい。いくら層の厚いホークスとはいえ、近藤の穴を完全に埋められる代役はいない。貯金が5つ前後減少することは、ある程度覚悟しておく必要があるだろう。

 さらに、現在のホークスは他の主力選手にも故障や不調が相次いでおり、チーム全体の戦力が低下している。2年連続のリーグ優勝を目指すうえで、今はまさに耐える時。近藤ら主力が帰って来るまで、なんとか優勝を狙える位置に踏みとどまりたいところだ。

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。