師匠・柳田と「こんなところで会いたくない」 若鷹が次々昇格…何度も溢した“僕が悪い”

笹川吉康【写真:竹村岳】
笹川吉康【写真:竹村岳】

受け止めた現状…「支配下の僕がいる中で」

 レギュラー候補の一角として注目された男が“やるせない”心境を吐露した。笹川吉康外野手が口にしたのは現状への強い焦りと、渦巻く悔しさ――。18日の西武戦(ベルーナドーム)で、正木智也外野手が左肩の亜脱臼で負傷交代。入れ替わる形で、19日から石塚綜一郎捕手が1軍に合流した。声がかからなかったという事実は、笹川の心に重くのしかかった。

 11日のロッテ戦(ZOZOマリン)では、柳田悠岐外野手が右足への自打球で途中交代。翌12日に右脛の骨挫傷と診断され、出場選手登録を抹消された。その際には育成だった山本恵大外野手が支配下登録され、1軍に合流した。2軍で打率.486と絶好調だったのは確かだが、首脳陣は「笹川昇格」という判断をくださなかった。

 さらに周東佑京内野手も古傷である左膝の状態が思わしくない状態で、近藤健介外野手も腰の手術を受けなかったため戦線離脱中だ。外野陣に故障者が相次ぐ苦しいチーム状況の中、なぜ自分は“そこ”にいないのか――。「僕が悪いんですけど……」。今季はレギュラーとしての活躍も期待された笹川が、偽らざる心境を明かした。

「悔しいです……。誰が1軍に上がったから悔しいというよりも、これだけオープン戦からレギュラー争いって言われて、外野もフルメンバーで、あと1枠を争っていたのに。今は3人ぐらい怪我していて、そんなチャンスなのに、自分が上がれない状況というか。『何してんだろうな』みたいな。上がれない状況っていうのは僕が悪いんですけど。これだけチャンスなのに行けないっていう」

 ウエスタン・リーグでは26試合に出場し打率.236、2本塁打、14打点。決して良い状態とは言えないことは、自分が一番よく理解している。「1軍に上がるためには調子が悪くても結果を出さないといけないんで」。昨シーズンに見せつけた姿も踏まえて、2025年の期待株であったことは間違いない。しかし、プロである以上、必要なのは結果だ。現状に対してどうこうと言っている場合ではないと、重く受け止める。

「僕が悪いんですけど。山本さんがとかではなくて、支配下の僕がいる中で、育成を上げてまで1軍に上がったというのは、やっぱり悔しいです」。何度も口をつく“僕が悪い”。山本に対する感情ではない。結果を残せていなかった自分自身への悔しさ、そして苛立ちそのものだった。そんな現実に、ただもどかしさが込み上げる。

19日のオリックス戦で安打を放った笹川吉康【写真:飯田航平】
19日のオリックス戦で安打を放った笹川吉康【写真:飯田航平】

2軍指揮官に伝えた「打てなかったら3軍に」

 それでも下を向いてばかりではいられない。石塚が昇格した19日の試合前、松山秀明2軍監督に「猛打賞を打ちます。打てなかったら3軍に行かせてください」と宣言した。指揮官は笑みを見せていたそうだが、背水の思いに偽りはない。悔しさはグラウンドで晴らすつもりだ。

 笹川の気持ちを受け止めるように、松山2軍監督も「石塚が上がったことによって、笹川も奮起しないとダメ。ライバルなんでね。今は呼ばれなかったという現実を受け止めて、もう1回呼ばれるように、成績を出すしかない」と語った。最大の持ち味はフルスイングであり、長打力であることは誰もが認める。その一方で、少しずつ“1軍で戦える”ことを明確に意識して、アプローチを変化させている。

「これまでだったら自分のスイングがしたいと思って振っていたんですけど。きょうは冷静に四球も選べました。状態は良くないけど、その日の内容的には良かった。状態が悪くないことをアピールして、マルチとか猛打賞を取りにいけるように」

 自ら“3軍降格”の覚悟すら示した19日のオリックス戦(タマスタ筑後)では、2打数1安打で2四球を選んだ。安打が出るに越したことはないが、状態の良さはボールを見極めることでもアピールできる。1軍で必要なのは自分のスイングをすることだけではない――。1打席にかける思いは、これまで以上に強くなった。

柳田への思い「こんなところで会いたくない」

 笹川にとって特別な存在でもある柳田が、リハビリでファーム施設へ合流する。そんな可能性についても本音を漏らした。「こんなところで会いたくないです。僕もギーさん(柳田)も、何してんだろうって感じですね」。自嘲気味な言葉に、現状への不甲斐なさが凝縮されていた。

 何度も口にした「僕が悪い」という言葉は、現状への率直な自己評価でもあり、這い上がろうとする強い意志の表れでもある。昇格が見送られた悔しさと、苦しい現状を受け止めたことは、笹川が成長していくための糧となるはずだ。1軍が苦戦を強いられている中、チームを救う存在になることをファンは信じている。

(飯田航平 / Kohei Iida)