チームは単独最下位も「チャンスですよ」
負傷者が続出する苦しいチーム状況でも、表情はいつもと変わらなかった。「怪我人が出ると、こういうふうになるっていうのは必然なので」――。主力の多くが不在の中、4番はどっしりと俯瞰してチームを見ていた。
18日の西武戦では今井、平良の継投によりノーヒットワンランを許す屈辱的敗戦、19日は隅田に完封され5連敗となった。18日には廣瀬隆太内野手の守備のミスで先制点を許すなど、チームは重苦しい雰囲気が漂った。
柳田悠岐、近藤健介両外野手が戦線離脱。周東佑京内野手も左膝の状態が悪く2試合を欠場した。チームも借金5で最下位に沈むが、山川穂高内野手が「チャンスですよ」と話す理由とは。
「根気強くやるだけですよ。あまり慌てるとか、逆に勢いに乗っていくとか、そういうのよりは、しっかりまず自分の打席1つ1つに対して、ベストスイングができたかとか。どうしても数字を見てしまうと『打率が下がってきたな』とか、『最近打てていないな』とか思いますけど、マイナスなことを考えるのではなくて。自分がちゃんとその場に立って、自分がしっかりした準備をしていい意味で勝負を楽しんでいく」
チームにとっては苦しい戦いが続いている。5連敗は小久保裕紀監督が就任してからワースト。打線は61年ぶりのノーヒットワンランを喫した翌日に、隅田に9回まで4安打に封じ込まれた。昨季とは一転して苦しい戦いが続いているが、主砲の表情は暗くない。
「チーム状況って、ぱっと良くなったり、逆にこうして悪くなったりもすると思うんですよね。これは相手ありきなのでどうしようとかできないんですよね。結果ではなく、今自分がその場所に立ってても、この試合に出られる、大勢の人の前でプレーができるっていうのをしっかり感じながらプレーしていくだけですよね」
山川自身はここまで打率.222、4本塁打、13打点。直近6試合は22打数2安打と苦戦している。それでも前向きに自らの打席に向き合えているのは、酸いも甘いも経験しているからだった。西武時代の2018年には47本塁打、2019年には43本塁打でタイトルを獲得。しかし、翌2020年は打率.205と不振に。苦しい日々でひたすらバットを振っていた。
自らの糧になる試練「明日が怖くて…」
「3時間も4時間もバットを振ったこともあるし、家に帰るのが(午前)2時とか3時になったこともある。明日が来るのが怖くて眠れないこともいっぱいある。年齢とともになくなっていくわけではないですけど、経験値がそれを乗り越えさせてくれる」
だからこそ、若手にとっては、まさにこの状況がチャンスになる。苦境や動揺が見える場面もあるが、悩むことを「十二分にしてほしいです。した方がいいと思います」ときっぱり。負けの責任は主力である自分たちが背負えばいい。若い選手にはもっともっと失敗して成長してほしい。目指すものは勝利だが、今こそそんな機会だとも考えている。
「若い選手はそれも乗り越えなきゃいけないですよね。自分も死ぬほど打てないのを去年も経験しているし、今もそこまで打っているわけではないし。逆に言えばめっちゃ打ったこともいっぱいあるし。そうやって苦しんでいる試合にいっぱい出て、失敗を自分で真摯に受け止めて。また練習して、絶対打つっていう強い気持ちを持って臨みさえすれば良いと思います」
主力を欠いたチームは若手にとっては出場する機会が増えることを意味する。まだまだシーズンは始まったばかり。柳田、近藤らが戻ってくる時まで辛抱強く戦えば、“流れ”は必ず来るはずだ。
(川村虎大 / Kodai Kawamura)