栗原が囲み取材で語らなかった”約束” 前田純が明かした2人だけのやりとり「かっけぇなって」

マウンドで前田純に声をかける栗原陵矢【写真:荒川祐史】
マウンドで前田純に声をかける栗原陵矢【写真:荒川祐史】

前田純が心を奮わせた栗原との約束

 4月17日の楽天戦(みずほPayPayドーム)、ついに栗原陵矢内野手が「3番・三塁」でスタメン出場を果たした。オープン戦で痛めた右脇腹のケガからの復帰戦。試合には敗れたものの、その存在がチームの空気を一変させた。

 打撃では5打数2安打の活躍。「初球から振れたのがよかったです」と納得の表情を浮かべた。守備でも軽快にゴロをさばき、復帰の安心感を漂わせた。試合が動き出したのは0-0で迎えた6回。先発の前田純投手が四球を与え、無死一塁となった場面だった。栗原は静かにマウンドへ歩み寄った。

「点が取れない場面もあったので。その中でピッチャーが踏ん張っていましたし、マエジュン(前田純)がいいピッチングをしていたので『なんとか頼む』と伝えました」

 そう語った栗原だが、実はその声かけには、明かされることがなかった“約束”が隠されていた。前田純が「かっけぇ」と思わず漏らしたその言葉とは――。そこには栗原陵矢だからこそ醸し出すことができる魅力が詰まっていた。

「6回の時に栗原さんが『マエジュンここ頼む、抑えてくれ。次打つから』って」

 その一言が前田純の心に火をつけた。先輩の力強い約束に奮い立った左腕は、阿部と鈴木を連続三振に斬って取り、続く伊藤も中飛に打ち取る。6回無失点の完璧な内容でマウンドを降りた。

 しかし、無得点だったのはホークス打線も同じ。6回に点数を奪えなければ前田純に勝ち星がつかない状況だった。無死一塁で栗原に打席が回ると“約束通り”に中前打を放った。その後、中村晃外野手が3ランを放ち、前田純に勝ち星がつく状況を演出してみせた。

「かっけぇって思いました。『打つから』って言って本当に打ったんです。頼もしかったです」。前田純は笑顔でそう語った。印象的なのは囲み取材での栗原の対応だ。“約束”のことは口にせず、前田純の好投だけを静かに称えた。その姿勢からは、栗原が背負う責任や、チームを引っ張る自覚が垣間見える。

6回に安打を放った栗原陵矢【写真:荒川祐史】
6回に安打を放った栗原陵矢【写真:荒川祐史】

逆転を許した直後の雰囲気に…「いける」

 栗原の復帰がチームにもたらす影響は大きいと、本多雄一内野守備走塁コーチも感じている。「雰囲気もやっぱりよくなっていたし、負けたとはいえ(栗原陵矢の復帰は)明るい材料。クリが居るだけで全然違うから」と、その存在感を強調する。

 さらに「内野陣には(今宮)健太(内野手)もいて、廣瀬(隆太内野手)が引っ張られて、(中村)晃が打った。いるべき人がいたら、やっぱりチームとしての安定感がありますよね。ミスをしたほうが負けなので、勝つためには安定感が必要です」と語る。

本多雄一コーチ(手前)と栗原陵矢【写真:荒川祐史】
本多雄一コーチ(手前)と栗原陵矢【写真:荒川祐史】

 チームは9回に逆転を許して敗戦したものの、ベンチの雰囲気は沈まなかったという。「(逆転された後も)もう1回ひっくり返すぞ、1点取りにいくぞという雰囲気がベンチにあった。あれがお通夜みたいになると、“今年を象徴するのかな”と思ったんですけど、そこで野手が声を出したんですよね。こっち(首脳陣)としては、まだ行けると思えたんです」と本多コーチは振り返る。

「野手がもう一度ガッと盛り上げてくれたら、ピッチャーは救われるんですよ。そういった姿を主力が見せることで『いける』って思えるので。クリが戻ってきたことでその雰囲気がありますよね」。9回にも安打を放ち、復帰早々に背中でチームを引っ張る姿を見せた。敗戦の中にあっても、チームに射す確かな光。その中心にいたのは、復帰した背番号「24」だった。

(飯田航平 / Kohei Iida)