オープン戦後に「物足りない」…村上コーチが明かす“その後”
一度は、白紙になった。奪われた座を、自分だけのものにしようとしている。ソフトバンクの正木智也外野手は今季16試合に出場して打率.263、2本塁打、8打点。開幕して以降、全ての試合で5番に座っている。
昨シーズンは80試合に出場して打率.270、7本塁打、29打点。6月21日に1軍昇格し、外野の一角を手にした。大卒4年目となるシーズン。小久保裕紀監督がレギュラーを明言したのは柳田悠岐外野手、近藤健介外野手、山川穂高内野手の3人だったが、世代交代のためにも正木にかかる期待は大きかったはずだ。
春季キャンプ中から順調な調整を見せ、3月から競争が本格化した。栗原陵矢内野手が離脱した影響も受けながら5番を託されたが、オープン戦では打率.192と苦しみ、指揮官には「ハッキリ言って、物足りないですね。チャンスを掴んだとは思わないです」とまで言わせてしまった。自分の座は一度、完全に白紙になった。
オープン戦が終わったのが3月23日。5日後の28日、開幕戦で5番に入ったのは、同じく正木だった。考え直すことを明言していた首脳陣の中で、どんなやりとりがあったのか。村上隆行打撃コーチは、小久保監督の思いを代弁する。厳しい言葉をかけながらも、信頼は不変だった。
「『5番じゃない』って監督は言ったけど、その中でも5番だと思っていたんじゃないですか。そういうふうに言って奮起させようということだったと思いますし。あいつ(正木)が記事を見るということも利用するじゃないですけど、このままじゃダメだなってなったと思います。去年苦しかったこともあったから今がある。結果がうまくいかなかった時でも成長していたから、今年はそれがあるんじゃないですか」
基本的には日々、村上コーチが考えた打順を小久保監督のもとへ持っていき、メンバーが決められる。当然、そこには相手投手の左右や特徴、さまざまな要素が含まれているが、開幕戦の前も村上コーチは5番に「正木」と記した。「怪我人も出ましたから、最初のプランとは大いに変わっています」としながらも「正木には迷わなかったし、外せないです」とキッパリ言い切った。
オープン戦の不調が「功を奏したんじゃないか」
「あの時は、状態も悪かったし、悪いものが前面に出ていた。そこであいつは振り返ったんです。その振り返ったことで、逆にいけるなとなりました。だから、1回、オープン戦終わりくらいに落ちたのが功を奏したんじゃないですかね」
開幕前、打撃練習を見ていても正木から変化は感じたという。「バッティング練習のやり方が変わっていたし、『ちょっとこうなっているね』という話もしました。そこに気がついて調整してくれたので」。修正に取り掛かっているのは、すぐさま伝わってきた。調子のいい時期も、悪い時期も昨シーズンに味わった。「ずっといいバッターはいないので、その中でどうやって調整するか、です。自分を持っているからその話ができるし、成長しているんだと思います」と、村上コーチも頼もしさを寄せていた。
正木は、自身が「開幕5番」であることをどのように知ったのか。「前日の練習中に監督から呼ばれて『5番レフトな』って言われました」。開幕以降、1度も動いていない打順は1番の周東佑京内野手、4番の山川、そして5番の正木だ。「実際はどの打順でもいいんですけど、打っていればそういうところで使ってもらえる。僕は結果を出し続けるしかないので、何番だろうがそんなに変わらないです」と言い聞かせる。
成長を示したのは2号ソロ…“タコ”の後に打つ価値
成長を感じたのは、11得点で大勝した4月6日の西武戦(みずほPayPayドーム)。打線は序盤から得点を重ねていたが、正木は7回まで2打数無安打に終わっていた。第4打席、左中間に2号ソロを描いたが、試合前練習中に小久保監督からハッパをかけられたばかりだったという。
「レギュラーを取るなら3タコしても4打席目に絶対に結果を出すことや、1本ヒットを打ったら2本目も全力で打ちにいくこと、『そういうのを目指せ』と言われました。その話をされた直後だったので、よかったです」
選ばれた選手だけが、スタメンとしてグラウンドに立てる。首脳陣に「外せない」とまで言われ、1度もポジションを譲っていないのも成長の証だ。「チャンスで回ってくる回数が多いので、そこでなんとか結果を出していくことは大事なこと。打点を稼げるチャンスだと思うので、ポジティブに打席に立てていると思います」。実力で掴んだ座は、もう絶対に手放さない。
(竹村岳 / Gaku Takemura)