山本恵大が支配下登録…大泉周也の胸中
試合が終わってから時計の長針はすでに2回りしていた。午後5時半、多くのチームメートがすでに帰路についていたが、室内練習場で一人黙々とバットを振り込んだ。今年で26歳になる育成外野手の表情は、焦りと覚悟の両方が滲み出ているようにも見えた。
12日、チームは山本恵大外野手を支配下登録した。左打ちで守備位置、年齢も同じ大泉周也外野手にとって、自身の立場が一層厳しくなったことを意味していた。斉藤和巳3軍監督も「複雑な心境でいたのは感じ取れた」と振り返っていた。
同学年で筑後で苦楽をともにしてきた仲。支配下登録が決まった後、大泉は山本にLINEで祝福のメッセージを送っていた。「報われて嬉しい気持ちもあります。けど……」。偽らざる本音と、斉藤監督からの言葉を明かした。
「同学年で仲も良くて。ずっと一緒にいて、苦労していたことも知っていますし、頑張っている姿も見てきたので。報われて嬉しい気持ちもあります。けど、やっぱりそこはライバルなので、もちろん悔しさもあります。そこは単に自分の実力不足なので、練習するしかないっていう感じです」
キャンプでは大泉がB組、山本がC組スタートだった。しかし、大泉は2軍開幕から4試合安打が出ず、以降は3軍でプレー。その間に山本は2軍で打率.486と圧倒的な成績を残した。柳田悠岐、近藤健介両外野手の離脱などの想定外もあり、急遽支配下登録された。ただ、本来、ホークスの外野陣は決して層が薄いポジションではない。
「外野手争いで、あそこに食い込んでいくっていうのがすごい厳しいことだっていうのは理解しているつもりなんですけど。でもやっぱり枠がある限りは掴みたいですし。諦めたらそこで終わりなので。そこはもう何がなんでもみたいな気持ちではいます」
支配下が決まった直後…斉藤監督との会話
支配下登録が決まり、大泉は山本に祝福の言葉を並べた。「『おめでとう』っていう感じで。そのくらいです。LINEもしましたし、『俺も頑張るわ』って言いました」。嬉しかった気持ちに嘘偽りはない。ただ、焦りや悔しさを押し殺してメッセージを送ったのも事実だ。
支配下枠が4つに減った12日の試合後もバットを振り続けて練習に没頭していた。そんな大泉の姿を斉藤監督もしっかりと見ていた。「気持ちはわかる。そういう感情になったということが正解でもあるのでね」。心中を代弁した。
「これがこの世界であって。ただチャンスがなくなったわけじゃないんでね。ここで逃げてしまったら何も意味がない」と斉藤監督。大泉には「やるしかない。頑張れ」と発破をかけた。厳しい現状に変わりはないが、枠がゼロになったわけではない。
大泉もその現状は理解している。「ああだこうだ言ってられない。山本もそうですけど、圧倒的な結果を出して、チャンスを掴んだわけなので。無理にでも目に入るぐらいの結果を残し続けなきゃいけない」。声を少し震わせながらも、言葉は力強かった。努力が全て報われる世界ではないが、チャンスを掴んだ選手は必ず努力をしている。報われる日を信じて、バットを振り続けている。
(川村虎大 / Kodai Kawamura)