試合中もひたすらメモ…“大関ノート”何が書いてある? 左腕に起きた変化「全部です」

練習中ノートに書き込む大関友久【写真:竹村岳】
練習中ノートに書き込む大関友久【写真:竹村岳】

「覚えきれなくてノートに書き始めました」

 ひたすら書き込んでいる姿をよく見かける。左腕らしい向上心が伝わってくる光景だ。ソフトバンクの大関友久投手は、今シーズンが6年目。育成ドラフトから入団し、今季も開幕からローテーションを掴んだ。欠かせない存在としてチームを支える中、ノートを手にメモを取る姿が目に止まる。

 首脳陣から早々に開幕ローテ入りを明言され、春季キャンプを過ごした。ここまで3試合に登板して1勝0敗、防御率2.50。4月12日のロッテ戦(ZOZOマリン)では7回無失点で初白星を手にした。相手打線を2安打に封じながらも、降板後はベンチでひたすらメモ。「次回の登板がありますからね」と、得た経験の全てを財産にしようとしている。簡単ではあるが、誰しもができるわけではないノートという習慣。どんなきっかけで始めるようになったのか。

 それは、心理学に対して本格的に取り組むようになったこと。「ここ2年くらいですかね。スポーツ心理学を取り入れると、考えることが増えました。覚えきれなくて、ノートに書き始めたって感じです」と語る。心技体において技術面にもフィジカル面にも、全力で向き合ってきた。だからこそ、今大切にしているのがメンタル面だ。「目標設定や、そういうのを考えた時に野球にまつわることは全部書いています」と、どんなところからもヒントを探している。

「選手が頭で考えているようなことを全部書いています。仕事をする上で『こういうふうにしよう』『こうやって進めよう』『こうだった、ああだった』『次はこうしてみよう』とかも書きますし。相手の打線をどういうふうに攻めるか、目標設定もそうですし、大事だと思ったことは全部書きます。書く必要がないと思ったことは書かないです」

ノートに書き込む大関友久【写真:竹村岳】
ノートに書き込む大関友久【写真:竹村岳】

メモを残す中で意識する“メリハリ”

 自身が先発した12日のロッテ戦、ノートを開いていたのは試合中だった。翌13日は雨天中止となり、チームは室内練習場で調整。大関は、練習が始まる前もひたすらメモを取っていた。「書いてばかりで練習時間が短くなるのはいけないので、バランスですけど」とはいうが、自分の中で書くタイミングは問わない。「試合の中でしか感じていないこと。試合が終わってから知らないうちに忘れることもあると思うので、覚えているうちに書いているのはあります」。

“殴り書き”……とまでは言わないが、スピード感も大切。「その時に感じたことはすぐに書くことが大事だと思います。ある程度、読める範囲で早さも意識して」と頷く。その中でメリハリもつけているそうで「ちゃんと目標を定めたい時は、丁寧にやっています」と、机と向き合う時間も左腕を成長させている。その瞬間にしか抱かない感情も、冷静に考えて設定する道筋も、どちらも自分にとって重要な要素だ。

 土浦湖北高、仙台大とアマチュア時代を過ごした。勉学という面では「人並みでした」と照れ笑いする。「その時に結構、頑張って勉強に取り組んだ時間はわりと今に生きている気がしますね」。やるべきことに対して、人並外れた集中力を発揮する。プロとして結果を残すために、妥協せずに取り組んできたことだ。

「相手のデータを見て、考察してノートにまとめる。そういうことってやっぱり好きな人は好きでしょうし。決して、手を抜いたらうまくいかない作業。集中しないといけない作業なので。そういう時に集中するっていうことは意外と、学生時代もやっていたことが生きている気がします。頭の中で考えていることって誰しもあります。それを書くことで言語化していたり、より頭に入っていたり、記録に残るし、いいことだと思うので。そんな感じです」

誰にでもできる習慣「手を抜いたらうまくいかない」

 独特な感性を磨き上げ、自分だけの地位を少しずつ積み上げてきた。「コツコツやることが大事です」という言葉に、大関らしさが表れていた。「最近思うのは……」と明かしたのは、自分自身のエネルギーを調整しながら戦う意識だ。

「『やるぞ』っていう気持ちは、もちろん大切です。でもその場で出し切ってしまったら、次回復するまでに時間がかかる。山登りとかも同じだと思うんですけど、5合目まで全速力でいったら6合目、7合目でどこかを痛めてしまったり、しっかり休憩もしないといけない。それよりは進み続けるために、エネルギーの量を調節する。試合みたいに、本当に大事な時っていうのは勝手に出ると思うので。毎日真剣にやることも大事なんですけど、入り込みすぎずに。全力を注ぎすぎてしまうと疲れるので、調節が大事です」

 プロ野球選手は、長いシーズンを戦っていく。「(先発投手なら)1週間単位もありますし、もしかしたら野球人生という意味もあるかもしれない」。どこまでも広い目で、今後を見つめる左腕。放つ言葉の1つ1つに、深みと頼もしさを感じる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)