直球ゴリ押しがなぜ「ナイスリード」? 松本裕樹と首脳陣が絶賛した海野隆司の“確信”

楽天戦の8回に登板した松本裕樹投手【写真:荒川祐史】
楽天戦の8回に登板した松本裕樹投手【写真:荒川祐史】

海野も「めちゃくちゃいいボールでした」

「ナイスリードでした」と、率直な言葉が出てきた。ビジョンを擦り合わせて、奪った1アウトだ。ソフトバンクは15日、楽天戦(みずほPayPayドーム)に1-2で敗れた。接戦を落として連勝は止まったものの、光ったのが松本裕樹投手の投球だ。海野隆司捕手と合わせた“呼吸”に深く迫っていく。

 1点を追う展開の中、7回に廣瀬隆太内野手の適時二塁打で同点とした。8回、マウンドに上がった松本裕。2死一塁という状況で、本塁打も放っていた浅村を迎えた。初球、一走・小深田に二盗を決められると、すぐさま倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)がマウンドへ。申告敬遠で、次打者・阿部との勝負を選択した。

 150キロ、150キロ、151キロ。直球で押しながら追い込むと、最後も154キロで空振り三振だ。昨年9月から右肩痛に悩まされた松本裕だが、2025年最速となった一球。「出すべきところで出たのはよかったです」と頷いた。申告敬遠も交えてピンチは広がったものの、ベンチや海野とどんな意思疎通をしていたのか。

 倉野コーチがマウンドまで来た時、かけられた言葉は「歩かせるよ」。ベンチ主導の判断で、楽天の主砲との勝負を避けることになった。「初球のフォークもいいところに投げても見逃されましたし、どちらかといえばこっちが後手に回る感じがしました」と、松本裕も気配を感じ取っていた。阿部に対して見せた4球連続の直球にも「それまで丁寧に投げていた分、裏をかけたのかなと思いますし。いいところにいってくれたのでよかったです」と、納得の表情だった。

小深田に二盗を決められマウンドに集まるナイン【写真:荒川祐史】
小深田に二盗を決められマウンドに集まるナイン【写真:荒川祐史】

 海野自身も「よかったですね。めちゃくちゃいいボールでした」と言葉少なに振り返る。小深田にヒットこそ打たれてはいたが「その時の球ですね。マツさんの球を見て『これならいける』っていうのがあったので」。ミットを通して“勝負できる球”であることはしっかりと伝わっていた。浅村を歩かせて、阿部に対して同じ球種で仕留めていく。バッテリーのビジョンが表れたようなシーンだった。チームは敗れてしまったが、海野にとっても収穫のある一球だったに違いない。

高谷裕亮コーチが絶賛…“含み”を持たせた言い方とは

「あそこに立たないとわからないこともある。ベンチから見ていることと、実際に受けて感じることは違う。後悔のない選択、『いっておけばよかった』という思いをしないように、ですね」

 長いシーズン、同じ相手と何度も対戦を繰り返していく。高谷裕亮バッテリーコーチは海野の配球について「僕もそうだし、受けている海野、投げているマツがそれぞれ『こういう感じ』って見えていたものがあると思う。お互いにいろんなものを見ながら、そういう判断になったんだと思います」と言う。今後の戦いも見据え、含みも持たせた言い方だった。その上で「腹を括ってよくいったと思いますよ。ナイスボール、ナイスリードです」と手を叩いた。詳細に話せずとも、ベンチとしても力強い意思は受け取っていたようだ。

 松本裕自身も、試行錯誤の途中にいる。昨年と比較すると、状態は「80%、85%くらいじゃないですか」と表現する。最速159キロの右腕は「今はどんどん投げていくことを意識しています。去年ほど出力が出なくても逃げるのではなくて、それを操ってちゃんと勝負しにいくこと」と言い聞かせた。2024年は自らの投球を「しんどかった」とも話していたが、新しい境地で成長を続けている。

8回のピンチをしのいでハイタッチする高谷裕亮バッテリーコーチ【写真:荒川祐史】
8回のピンチをしのいでハイタッチする高谷裕亮バッテリーコーチ【写真:荒川祐史】

「正直、あそこ(昨シーズン)まで上がらなくてもいいと思っているところもある。あえてそこを目指して焦ったり、不安に思うこともなく、ここまでできていると思います。(出力を)出すことが最善だと思えば、出しに行きたいですし。そこを気にせずにやっていける体ではあるので、継続していきたいです」

 その1つが、この日も投げていた140キロ台の変化球。「あれはフォークですね。オープン戦の中盤くらいから変えているところです」と明かす。スライダーも含めて、変化量の大きさがある印象だったが「(バットに)当てられてもいいですし、空振りを取れたらベスト。去年は自分の中で、そういうところでしんどくなっていた。(投球の幅が)広がってくれたらいいですね」と前向きに話した。選手それぞれが妥協することなく、これからも1つ1つのアウトを積み重ねていく。

(竹村岳 / Gaku Takemura)