松山2軍監督も絶賛…「本当に素晴らしい」
投げられることの喜びを全身で表現する。今季3年目を迎えた育成の宮崎颯投手の好投が続いている。2022年の育成ドラフト8位で東農大から入団。しかし、左肘に異常が見つかり、いわゆるトミー・ジョン手術を受けた。2023年の登板はなく、昨季の途中からは3軍や4軍で登板を重ねていた。
リハビリ期間とは別人のような表情を見せたのは、春季キャンプ中からだった。状態の良さを感じさせる笑顔は、昨年はあまり見ることができなかった。元々“練習の虫″。昨年はリハビリ組の練習が終わった後も、たった1人でネットに向かって投球を繰り返していた。森山良二リハビリ担当コーチ(投手)からは「練習やり過ぎ注意」の指示が出されるほど。投げられないもどかしさがあった。
今季は2軍のマウンドで躍動している。3日の中日戦では2番手として4回から登板。3回を投げて無失点の3奪三振の好投を見せた。見守った松山秀明2軍監督も「本当に素晴らしいですよね」と絶賛した。そんな左腕のグラブにはある言葉が刺繍されている。「綴りを間違えてしまったんです」と語るエピソードと、その言葉を刻んだ意図には、宮崎の人間性が溢れていた。
「Jackie Tommy」
宮崎のグラブに刺繍されている文字だ。「Tommy」はトミー・ジョン手術から取ったもの。「手術をさせていただいたチームに、少しでもレベルアップして次は1軍の舞台でそれを返せるように、というのが僕の中にあったので。その気持ちを忘れないように」と、グラブに思いを記した。
では「Jackie」は何を意味するのかというと「間違えて入れちゃいました」と説明する。周囲からは宮崎の“崎”を変換させてジャーキーと呼ばれているため、本来であれば「Jerky」と入れたかったという。しかし誤った綴りで依頼してしまったため、グラブには「Jackie Tommy」と人名のような文字が入っている。
実感する…「ようやく野球をしているな」
登板した3日の試合前には新たなグラブが届けられた。「自分の名前と、大どんでん返しと(刺繍を)入れました。今シーズンは自分でも大どんでん返しっていうことを目標にしています。全て捲るっていう意味を込めて 」。ようやく回復した左肘。「打者を抑えられていることも、去年まではできなかったことですし、『ようやく野球をしているな』という感じがあります」と、投げることができなかった期間があるからこそ、今季にかける思いは人一倍強い。
登板はなかったが、オープン戦で1軍の舞台を経験できたことも大きな活力になった。
「『あそこで投げたい』というのが素直な気持ちでした。あの雰囲気で投げたいと思いました。その時に投げられなかった悔しさはありましたけど、それよりも収穫としてはあのマウンドに『次は戦力として戻ってきてやる』という思いが一番強かったです」
必ず脱帽し頭を下げてから上がるマウンド。懸命に腕を振る姿からは確かな勢いを感じる。「彼はこれから先発とか中継ぎとか、いろんなところで投げていけるんじゃないかと、僕らに感じさせてくれた。いいものを僕らも見せてもらった」と松山2軍監督も期待を込める。「チャンスを自分の実力で掴んで、1日でも早く上の舞台で活躍したい」。左腕が見せる表情に曇りは一切ない。
(飯田航平 / Kohei Iida)