鋭い視線でグラウンドを見つめる。16日に行われた日本ハムとのオープン戦(みずほPayPayドーム)。ホークスが試合前練習を終えると、各自が試合に対して備える時間となる。そんな中、1人でベンチに座り、相手チームの打撃練習をじっと見つめていたのが、渡邉陸捕手だ。15日のウエスタン・リーグ開幕戦には「4番・捕手」で出場。1度は2軍降格を告げられたが、海野隆司捕手の負傷により、すぐに1軍から声がかかった。
照れ笑いをしながら、元同僚の姿を眺める渡邉だったが、試合前練習が終わった後に相手チームの姿を見ているのは、この日だけではなかった。捕手として、投手を引っ張っていくためにも“敵城視察”は重要なことだが、今の渡邉にとってはそれだけではない。1軍に生き残るためのヒントが詰まっていると話す。
「打撃練習を見てどんなバッターなのかを見ているというのもありますけど、自分のバッティングに生かしたい気持ちもあります。バッターの特徴もそうですけど、どんなバッティングをしているのかなというのもあります」
渡邉が相手を観察する時間は、選手にとって食事や休憩など、貴重な時間にあたる。準備をパッと済ませるとすぐにグラウンドへ出てくるのが日課。「ご飯を食べてすぐです。時間があるのでロッカーにいるよりは、と思って」。少しの時間も無駄にはできない。グラウンドで得られるものは、貪欲に取り入れたいという考えだ。
この姿を評価するのは髙谷裕亮バッテリーコーチだ。1軍通算出場は20試合。まだまだ経験は浅いだけに「知らないバッターを見るために、ベンチの端っこで見たりしているところは、僕も見ていますから」と手を叩いた。同じ時間を過ごすのなら、相手チームからでもヒントを探す。まさに「できそうでできないこと」だと、渡邉の取り組みを称賛した。捕手という重要なポジション、きっと日々の積み重ねがピンチの時に自分を救ってくれる。
「2軍へ行く前に『そういう姿勢は変えずにやっていけよ』ってことは言われたので」。12日の巨人戦の後、2軍降格を告げられた際に高谷コーチから声をかけられた。海野の離脱で1軍に呼び戻されたが、自分の信念が変わることはない。
「どうなるかわからないですけど。結果を残したいです」
生き残り続けるためには、何よりも結果が必要。それは、渡邉自身が一番よく理解していることだ。与えられた時間の中で、最大限のアピールをしていかなければならない。ベンチで見せる真剣な眼差しが“1軍定着”への強い思いを物語っていた。