「山川に勝てないなら…」 指揮官が説く、若鷹が生き残るための“スタイル転換”

選手たちの練習を見守る松山秀明2軍監督【写真:竹村岳】
選手たちの練習を見守る松山秀明2軍監督【写真:竹村岳】

松山秀明2軍監督は指揮を執り2年目のシーズン…1月31日にナインへ伝えたのは

 期待の若手も、確かにいる。ただ、1軍の厚い壁を乗り越えていくには、時には個性を“殺す”ことも重要だ。ソフトバンクは1日、宮崎市内の生目の杜運動公園で春季キャンプがスタートした。初日から、天気は雨。室内練習場でA組が午前中、B組が午後からという分離練習となった。選手たちを見守ったのは、松山秀明2軍監督。「2月1日というのは、目的を持って入ってきているわけですよね。ここで雰囲気が変わらないとおかしいですよ」と、ピリピリした空気を感じ取っていた。

 今年は11人が「S組」として扱われ、15日まで独自調整を許可されている。柳田悠岐外野手ら実績のある主力には時間を与え、その間に「若い選手たちを見るため」と小久保裕紀監督も狙いを語った。A組は38人でスタートだが、15日になれば入れ替えを行う見込み。選手たちにとっても、今こそが首脳陣に対する絶好のアピールチャンスだ。

 板東湧梧投手、廣瀬隆太内野手、野村勇内野手ら1軍で経験のある選手もB組スタートとなった。1月31日、A組は夕方に宮崎入りを果たしたが、B組はそれよりも少し早くチーム宿舎に到着した。全体ミーティングで松山2軍監督がナインに伝えたのは「考える力が必要」ということだった。「自分がやりたいことをやったところで、このチームに必要とされなかったら価値はないわけですからね」――。

「例えば、ホームランバッターを目指したところで、山川(穂高)に勝てないなら、違うものを目指さないと試合には出られない。結局は、プロですからね。みんな、お金を稼ぐために野球をやっている。稼ぐためには自分のスタイルだって殺していいと思うんです。そうやって変化して、違う自分を作っていくのもプロ。それも考えてる力がないといけないですよね」

 小久保監督は2025年の戦いにおいて柳田、山川、近藤健介外野手をレギュラーだと明言している。すでに3つの椅子は埋まっているだけに、ポジションを奪っていくなら違う持ち味で競争を勝ち抜かなければならない。圧倒的な打力や、ユーティリティプレーヤーという存在でもいい。1軍に欠けているのはどんな存在なのかを自ら考え、武器に磨きをかけていくのもプロの仕事だ。

「それも全部含めて考えるということです。ここで練習をサボったらこうなる、逆にできればこうなっていくだとか、答えを自分で見つけて行動していかないといけない。考えるって簡単に言いますけど、受け止め方で大きくも変わるし、(この先のプロ生活が)短くもなる。自主性って今はよく言いますけど、自由というのは一番難しいわけですからね」

B組スタートとなった廣瀬隆太【写真:竹村岳】
B組スタートとなった廣瀬隆太【写真:竹村岳】

 個性を生かして居場所を作った例として挙げられたのが、川瀬晃内野手だった。昨シーズンは二遊間、一塁と三塁も守るなど便利屋としてもチームを支えた。打率.261も記録し、課題だった打力でも確かな成長を見せている。「自分がやりたいピースじゃないんです。僕たち(首脳陣)がほしいピースになってくれと、小久保監督も言っているわけですからね。評価するのは、あくまでも僕たち。自己評価は必要ないです」と松山2軍監督もキッパリ言った。

「1月31日の心構えが『2年、3年と続けていけたらどうなるの?』という話です。2月1日だからじゃなくて、同じ気持ちを持って練習ができれば1軍に行けるんじゃないかと思いますよ」

 B組には1軍のレギュラーを目指す選手もいれば、まだまだ基礎から固めなければいけない若手もいる。それぞれ目的が違うのだから、足並みを揃える必要はない。問われるのは、目標へと突き進む強い意志だ。松山2軍監督も「誰かと比べるという組織ではない。自分の立場を確立するために練習するわけですから」。支配下でB組スタートとなったのは10人。ここから這い上がっていくためには誰よりも考え、汗を流さないといけない。

「無理な時は無理かもしれないですけど、何か自分にチャンスがあるかもしれない。冷静に考えることです。“欲”に突っ走ってもいいんですよ、自分の人生ですから。でも、負けたらクビになる。責任を持ってやってくれたらいいという話はしました」

 端的な言葉に詰まるプロとして重要な要素。妥協すれば自然と落ちていく世界。1人でも多くの若鷹を、1軍へ伸し上げる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)