昨春キャンプでは2日目に155キロ計測もリタイア…「僕にはわからない」
1年前の“過ち”は二度と繰り返さない。2月1日から始まる春季キャンプに向けて順調に歩みを進めているのが、今季8年目を迎える尾形崇斗投手だ。昨春キャンプでは2日目のブルペン投球で155キロを計測。飛ばしに飛ばしたが、右肩の張りで3月にリハビリ組へ合流。実戦復帰までに3か月もの時間を要した。
その姿勢を叱責したのが、尾形が師匠と仰ぐロベルト・オスナ投手だった。「8か月以上も続くシーズンの前に、彼はキャンプ初日から95マイル(約152.9キロ)から97マイル(約157.7キロ)を狙っていた。その理由が僕にはわからなかった。開幕1軍を目指して頑張ったというのはわからなくはないけど、2日目に155キロを出す必要があったのかなと」。
もちろん、昨季の尾形は猛アピールが必要な立場であったことは間違いない。一方で、今季は小久保裕紀監督が勝ちパターンの一角として名前を挙げるなど、立ち位置は明確に変わっている。今オフの自主トレ中に入ったブルペンでは、早くも153.7キロを計測。出ている球速はほぼ同じだが、プロセスは180度変わっていると強調する。
「去年のキャンプでは12割くらいの力感で投げてしまっていたので。今年は『10・10・8』とか、『8・10・10』のイメージで行ければいいなと思っています」
一見すると何のことだか分からない数字を右腕が解説してくれた。「僕の中でピッチングの出力は3つに分かれるんです。フォームの移動速度、腰の回転力、そしてアーム(腕を振る)のスピード。全てを極端に抑えてしまうと、僕の中でバランスが崩れてしまう。きょうは移動速度を80%に抑えて、腰とアームは100%でいくとか。そういう感じでうまく負担を分散させようと思っています」
全ての要素にフルパワーを注ぐと、一気に故障のリスクが高まる。昨季の経験があるからこそ自身のピッチングを細分化し、シーズンを通して投げ続けるためのプランを描いている。
キャンプ前から150キロ超の速球を投げているのも、ペースを無視しているわけではない。「去年は10割の出力で投げていたボールが、今は9割で出せている。1球ごとに1割の負担を減らせている状態なんです。これが積み重なった時に、体の負担をかなり減らすことができる。この1割が大きいと思ってます」。昨秋の日本シリーズが終わった翌日からみずほPayPayドームを訪れ、トレーニングを欠かさなかった。その成果が今につながっている。
故障防止策はまだある。「自分が春のキャンプでどこを痛めやすいのか。7年分くらいのデータをまとめてもらって、肩回りと肋骨回り、右内転筋と右足首が特にケアしないといけないことが分かったので。そこは重点的に気を付けていこうかなと」。師匠を悲しませないためにも、細心の注意を払っている。
怪我しないにこしたことはないが、恐れてばかりでもいけない。「ここまでやっても怪我をするときはするんで。その時に仕方ないなと思えるように、出来ることは全部準備しています」。1年前、誰よりも悔しかったのは尾形自身だ。8年目に向けた覚悟は、言葉でなく行動で示す。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)