居酒屋でこぼした本音「時間を失いたくない」 トレード直前…三森大貴が予感させた別れ

ソフトバンク・三森大貴
ソフトバンク・三森大貴

口に出さなかった「ホークスを出たくない」…明かした胸中

 昨年12月中旬、福岡市内の居酒屋で三森大貴内野手とグラスを交わした。忘年会シーズン真っただ中で、カウンター席しか取ることができなかったことを詫びた。「大丈夫ですよ、気にしないで下さい」。25歳とは思えない落ち着きぶりで気難しそうな印象を持たれがちだが、実におおらかな男だ。

 ホークスがポストシーズンを目前に控えていた10月上旬ごろ、筑後のファーム施設で三森に話を聞こうとした。クライマックスシリーズ(CS)、日本シリーズでの出場機会がなさそうなことは、三森も肌で感じていた。「ここじゃ、ちょっと話せないことばかりですね」。秋季キャンプで食事に行こうとしたが都合が合わず、冒頭の12月中旬にようやく膝を突き合わせることができた。

「色んな記者さんから『トレードどうなっているんですか』『どこの球団に行きたいですか』って聞かれましたね。それこそ名前も知らない人からも。答えはいつも一緒。『別にこだわりはないので。どこでも全然いいですよ』って。僕はそんな話、全然聞いていなかったんですけど、この顔がそんな感じに見えたんですかね」

 三森は少しおどけたように笑ってみせた。手始めの乾杯からすでに1時間近くが過ぎていた。三森はずっとビールを口に運んだ。「ホークスを出たくない。このままずっとプレーしたい」とは言わなかった。いや、言えなかった。入団してから8年間、育ててもらった恩義はもちろん感じていた。それでも自らのキャリアを考えれば、このままホークスのユニホームを着続ける未来は描けなかった。

「僕ももう若手と呼ばれるような年齢ではないので。ここから1年、1年がプロ野球人生にとって大事な時間になる。言わば“稼ぎ時”なので。試合に出られず、貴重な時間を失うことだけはしたくないんです」。昨年2月の春季キャンプが始まる前から「今年は1軍でプレーするのは難しいかもしれない」と感じていた。昨季は2度の骨折という不運もあったが、25試合の出場にとどまった。予感は的中した。

 夜も深まり、テーブルには刺身や肉などのメインに変わり、漬物などの箸休めが並んだ。ジョッキが空になるペースも自然と早くなる。「僕、記事にならない選手だったでしょ?」。唐突に聞かれ、思わず笑った。「あまり本心を言うタイプじゃないんですよね。試合後に記者の方から話を聞かれても、当たり障りのないことしか言わなかったと思うんですよ。それは自分でもわかっていました」。

 言いたいことは、それとなく分かった。「変なことを言って誤解されたくないですし、野球選手である以上はプレー、結果がすべてなので。そこで判断してもらえればそれでいいんです。だから、もしチームが変わったとしても、勝負に負けたらそれまで。そこは覚悟していますよ」。不器用で、昔気質。周囲に無理して合わせることもない25歳。だからこそ心から応援したくなる選手だったし、それは今後も変わらないだろう。

 飲み始めてから3時間半が経ち、テーブルにはつまみもなくなった。店を出て、階段を上る三森の足取りは確かなままだった。「それじゃあ、また“どこか”で」。この食事から約2週間後、DeNAとの交換トレードが発表された。どこかで予感していたようなあの日のあいさつと、冷え込んだ街の空気を思い出すたび、寂しさがよみがえってくる。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)