「自主トレはもう(カブスの)今永(昇太)さんとやることが決まっていたので、連絡先だけでもつなげてもらえないかと田上さんにお願いしました」。左腕はすぐにアプローチし、LINEをつなげてもらった。千賀からは「同じ41番というのもそうだし、周りからの(前田悠に対する)話も良かったから、ちょっと誘ってみたよ」と言われたという。それを受け、千賀、田上とともに東京で3日間トレーニングをすることになった。
東京でトレーニングが始まる前夜、食事をともにした。これが千賀との初対面だった。場所は高級日本料理店。前田悠は「めっちゃ緊張しました」と、プロ初登板の時をはるかに超える緊張感に包まれたという。「まずは憧れの目で見てしまったというか。『うわー、千賀さんやー!』みたいな感じでした。もちろん、実際に会うのも初めてだったので、『メジャーの千賀さんや』って感じです」。19歳はこれ以上ないほどに目を輝かせた。
千賀に別の予定が入り、食事をしたのはわずか30分ほどだった。それでも前田悠にとって、規格外のスケールに驚く“濃厚な時間”だった。「焼く前のクソでかいエビが出てきたんです。アワビとかもまだ生きている状態だったので、ずっとビックリしていました。銀杏とかも出てきて、魚もめっちゃ美味しくて……。シャトーブリアンも出てきて、『こんなん食べていいのかな』と思いました」。次々と運ばれる高級料理と、目の前のメジャーリーガーに恐縮しきりだった。緊張はしていたが、「もうめちゃくちゃ美味しかったですね」と、しっかり味わう“強心臓”ぶりも見せた。
食事中には3日間のトレーニング方針ついて説明を受けたり、取り組みたいことについて質問されたりした。「『前田くん、どこが気になっている?』とか、『どこの部分をこのオフでしっかりやりたい?』みたいなことを聞いてもらって。僕は『真っすぐの質、真っすぐの全部を上げたい』っていうのと、『もっと体重を増やして体を大きくしたい』って伝えたら、いろいろと考えてくれました」。
実際にトレーニングが始まると、千賀は左腕のフォームを親身にチェックし、たくさんのアドバイスを送ってくれた。「『お前はこうした方がいいよ』と押し付けるんじゃなくて、僕のフォームや動きを見た上で、自分のことを話しているかのように言ってくださったんです。だから、スッと頭に入ってきましたね」と心底、感激した。
千賀の知識や能力のみならず、指導力や表現力……全てに圧倒された。その感動を伝えるのに一生懸命な左腕の姿からも、充実感があふれていた。ルーキーイヤーの昨季、1年間を通して何度もインタビューをしてきたが、過去一番と言っていいほどに気持ちを込めて、千賀との時間を熱弁してくれた。
改めて感じた背番号「41」の偉大さ——。「千賀さんがつけていたっていう意味で偉大な番号だと思うので、本当に恥じないようにというか……。自分も続いていけたらなっていう気持ちに改めてなりました」。大先輩と過ごしたかけがえのない3日間を噛み締めるように振り返った。
全ての出来事が尊かった。「前田くん」と呼んでもらったことも「めっちゃ嬉しかったっす」と笑みを浮かべた。「一緒に写真、撮っていないんです。言おうと思っていたんですけど、なんかもうトレーニングとかが充実しすぎて、忘れていましたね。撮りたかったんですけど……」と初々しい“後悔”も口にした。幸せだった時間を振り返った前田悠は「マジですごかったです。もう1回、一緒にやりたいです」と余韻に浸った。偉大な先輩の背中を見て、“未来のエース候補”はより一層、強い気持ちに満ちあふれていた。