これまでに経験したことがない、長いシーズンだった。今季はチーム最多タイとなる50試合に登板。プロ入りから積み重ねてきた登板数「38」を1年で上回った。「これまでの5年間を、この1年で覆すくらいのパフォーマンスを何とか出したい。本当にそれだけだった」。杉山が口にしたのは、あまりにも強烈な感情だった。
「この5年間、僕のプレーを客観視したら最悪に近いイメージだったと思うので。そこを自分の力で覆したいという気持ちがあった。ただ、覆せたとして、『来年もやったるぞ』みたいな気持ちは今年の初めには出てこなくて。だから『今年1年で終わる』と口にしたんです」
プロで歩んできた5年間を「最悪に近い」と言い切った。自らを卑下したわけでもなく、同情を誘うつもりもない。心から出た、素直な感情だった。
2018年ドラフト2位で入団した杉山は、即戦力右腕として大きな期待をかけられていた。2019年の春季キャンプでは150キロ後半の直球に鋭く曲がるスライダーを披露し、首脳陣は「ものが違う」と絶賛。高いポテンシャルを示す一方で、悩まされ続けてきたのは「制球難」だった。
「いつかはチームの柱になってくれる」――。期待の声は年を重ねるたびに小さくなり、反応は変わっていった。試合で四球を出すたびに聞こえるため息。「また杉山かよ」。そんな空気は、マウンドに立っている右腕が痛いほど感じていた。
「ファンの人と同じ気持ちでしたね、僕も。『またかよ』みたいな。僕の場合は打たれて、打たれてというよりは自滅の印象が強い。自分でしか変えられない部分なので。それなら変わるしかないですよね」
今年立てたテーマは「丁寧に生きる」。その覚悟が、少しずつ成果につながっていった。「とにかくチームのために、という考えに全振りできていた。倉野(信次1軍投手)コーチも、小久保(裕紀)監督も『フォアボールを出しても、0点だったらいいよ』ってスタンスでいてくれたので。それに僕が応えるしかない」。1球1球に全力を注いだ結果が、今年の成績に現れた。
今季はファンのため息が少しずつ消えていき、杉山の名前がコールされると大きな拍手が起きるようになった。「本当にこの1年で変われなかったら、もう自分は終わりだっていう思いだけでした」。痛々しいほどの自己分析を経て、生まれ変わった右腕。相手チームにとって「またかよ」と言わせるほどの存在感だった。