異例の転身だった。「コーチじゃなくてもいい」とハッキリ言ったのは、決意の表れだ。ソフトバンクは8日、2025年のコーチングスタッフを発表した。1軍の指揮は引き続き、小久保裕紀監督が執る。今季は4軍監督を務めた斉藤和巳氏が3軍監督に配置転換となるなど、日本一を目指す布陣が固まった。
名前が見当たらなかったのが、2024年は2軍で打撃コーチを務めていた明石健志氏だ。ファンからも「明石がいないのどういうこと?」「どこに行ったの?」「来季何するんですか!」との声が上がっていた。本人を直撃すると「R&D」への転身だった。
「R&D」とは「リサーチアンドディベロップメント」の略称。「動作解析」の観点から、野球選手の“感覚”を数値化する。科学的なアプローチで、選手のパフォーマンス向上を目指していくのが仕事だ。2023年まで2年間、1軍で打撃コーチを務めていた長谷川勇也氏も、今シーズンは同部門で経験を積んでいた。明石氏にとって今回の転身は、どんな理由があったのか。
「打撃コーチをする上でもそうですけど、動作解析の時には数値とグラフで出てくるわけじゃないですか。まずは、それを覚えたいなと。そうじゃないと、主観的に言う(指導する)だけになってしまうので。プロ野球は何十年とやっていたので、ピッチャーとの対峙の仕方とかは自分の中でも持っている。それプラス、動作解析やフィードバックができれば。去年、(米国へ)ドライブ・ラインに行った時に、絶対的に必要なものだと思いました」
きっかけは昨年12月だった。球団による取り組みの一貫で、選手と一緒に渡米。トレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」に足を運び、最先端をいく指導メソッドに触れた。「数値だけ見て、だからこういう打球になるとか、これだけしか打球速度が出ないとかも一発でわかる。そういうのって、これからの野球で本当に必要なことなので。数値を見た時の頭のイメージと、実際に選手が打っている選手のイメージをリンクさせていかないと」と言葉を続けた。
2022年に現役を引退した。通算648安打を記録し、翌2023年から2軍で打撃コーチを務めた。感覚による指導から、科学的な知見を用いて選手にアプローチする時代になっている。経験を重ねるほど、指導者として成長するためにもより深く動作解析に触れたいと思った。明石氏は「絶対に覚えないといけないと思ったし、必要不可欠になってきます」と断言する。
「全てにおいて必要だと思います。今はバッティングの部門でしかクローズアップされていませんけど、これが守備だったり、走塁だったりに応用できる。じゃあ守備位置から落下点まで最短で行っているのかっていうのも、すぐにわかる。僕はバッティングを勉強したいですけど、そっちの考えも広げていきたいですし、応用できるところだと思います」
自身の「勉強したい」という思いも、後押しした。「スキルを上げていきたいですね。R&Dという部門が球団にあるから移るだけでいいですけど、本当なら、(球団を)辞めて大学とかそっちの方に行かないといけない。球団にいて勉強ができるというのは感謝ですよね」。より良い指導者になるため、そしてさまざまな経験を積むことで自分のキャリアを充実させるために、R&Dを自ら希望した。
プロ野球にとってユニホームは神聖なもの。ジャージ姿になった長谷川氏はR&Dに転身する際、“ユニホームを脱ぐ”ことへの抵抗は「ないでしょう。みんなにビックリされますけど、自分がやりたいことをやるだけです」と繰り返していた。明石氏も「必要な知識を勉強したいだけ。コーチじゃなくてもいいんです」と、迷いはなかった。日々、進化する野球において、常に最先端を走っていたいからだ。
来季の組閣が発表された時、ファンの方々からは明石氏の名前がないことに驚きの声が上がっていた。メッセージをお願いすると、「コーチでも、R&Dでもやることは変わらないです。より深いところまで勉強したかったのもありますし。変わらず、筑後におるんで、よろしくお願いします」と、変わらない優しい笑顔で語った。2025年もホークスの一員として、より深く野球を知る。