前田悠伍が堪えた涙…19歳が初めて経験した先輩との別れ 戦力外を知り送ったLINE

ソフトバンク・前田悠伍(右)【写真:竹村岳】
ソフトバンク・前田悠伍(右)【写真:竹村岳】

7日に球団発表…育成8選手の戦力外にドラ1左腕は「マジ寂しいです」

 鷹フルによる前田悠伍投手の単独インタビュー。全3回の3回目、テーマは「別れ」です。プロとして初めて経験した先輩選手たちへの戦力外通告。19歳が思わず送ったLINEとは……。涙を必死に堪えながら、「もう少し一緒にやっていたかったです」と思いを吐露しました。手応えを掴んだ一方で、辛さも悔しさも味わった1年目。来シーズンへ、どんなオフを過ごしたいのでしょうか。

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 10月7日、ホークスは計9選手に来季の戦力構想から外れたことを通達した。昨年ドラフト5位の澤柳亮太郎投手と来季の支配下契約を結ばない旨が発表された他、育成8選手がチームを去ることになった。昨年同1位の前田悠にとって繋がりが深かったのが、一緒に2軍でプレーしていた古川侑利投手と渡邊佑樹投手だ。「(選手間の)噂もあって、自分で調べました」。思わずスマートフォンを開き、LINEを送ったという。

「クワさん、フルさんとナベさんがいなくなってマジ寂しいです」

 連絡したのは、古川や渡邊佑と同学年の鍬原拓也投手だった。3選手は5日にひなたサンマリンスタジアム宮崎で行われたファーム日本手権に参加し、前田悠は筑後での練習で汗を流していた。6日夜、鍬原は古川や渡邊佑の荷物が食事会場に置かれていたことに気付き、チームを去ることを察していた。その後、前田悠から届いたLINEには「僕、宮崎行っていなくてよかったです」との文字。その後もやり取りは続いたという。

「僕、宮崎行ってなくてよかったです」

「なんで?」

「宮崎行ってたら、僕泣いちゃってました」

「それほんまに思ってる?」

「思ってますよ!」

 翌7日、正式に球団から発表された。春季キャンプで同部屋だった渡邊佑や、「全力少年」と呼ばれるほど妥協なく練習に取り組んだ古川の姿を、前田悠は近くで見てきた。「めちゃくちゃ悲しかったです。宮崎にいなくてよかったと思いました。宮崎にいたら、もしかしたら泣いてたなって思ったので。こっちにいて、なんて言えばいいのか分からないんですけど……」。19歳には辛い別れだった。

「クワさんと話をしていて、『勝負の世界やからしゃーない』『こういうことも付き物』と言われたんですけど。昨日まで一緒にやっていた人が次の日にいないというのは悲しかったですし、もう少し一緒にやりたかったという気持ちにもなりました。でも勝負の世界だから仕方ないとも思って、自分もみんなに負けないようにもっと頑張っていかないといけないと思いました」

 前田悠にとって、戦力外通告でチームメートと別れるのは初めて。「古川さんは兄貴肌で、誰に対しても優しいというか、飾らないですし。取り組みも人一倍で、ウエートもすごい。古川さんがリリーフして抑えてもらったこともありましたし」。ルーキー左腕が泣きそうになっていたことを渡邊佑に伝えると「あいつ、絶対そう言っているだけですよ!」と笑い飛ばしつつ、別れを惜しんでいた。

戦力外通告を受け、みずほPayPayドームに挨拶に訪れた古川侑利投手と渡邊佑樹投手【写真:竹村岳】
戦力外通告を受け、みずほPayPayドームに挨拶に訪れた古川侑利投手と渡邊佑樹投手【写真:竹村岳】

 プロ野球選手は個人事業主。自分が試合に出れば、チャンスを失う選手もいる。チームメートは、自らの生活をかけて戦う相手でもある。前田悠にとっては、どんな感覚なのだろうか。「高校の時は日本一を目指してやっていて、団体で動いていた」と振り返る。その上で、「プロだと野球の時は誰にも負けたくないし、一番になりたい気持ちが強いです。野球をやっていない時はいろんなことを聞いて、吸収して。勉強になることが多いので。(負けたくない気持ちと仲良くしたい気持ちの)どっちもありますね」と頷いた。

 ウエスタン・リーグでは12登板で4勝1敗、防御率1.94。手応えを得た。10月1日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)でプロ初登板。3回6失点という結果は、忘れてはいけない経験となった。ポストシーズンはあるものの、1年目を終えて、どんなオフを過ごすのか。

「1年目の半分くらいは2軍だったので。2軍では勝ち続けられる投手になりたいですし、2軍だけじゃなく1軍でも圧倒できる投手になりたいです。そのためには取り組み方とか日頃の練習、オフシーズンの期間が一番大事になると思うので。遊ぶことなくというか、今年はやるしかないと思う。今年が勝負だと思って過ごしたいと思います」

 2年目の2025年はどんな成長曲線を描くのか。前田悠伍の歩みは、一瞬たりとも見逃せない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)