周東佑京に見抜かれた“下心”…反省させられた公私混同 夏前のサインを巡る出来事

ソフトバンク・周東佑京【写真:竹村岳】
ソフトバンク・周東佑京【写真:竹村岳】

裏方に転身して4年目…西田広報も初めて味わった優勝は「素直にうれしい」

 4年ぶりのリーグ優勝を果たしたホークス。鷹フルでは若手からベテラン、裏方スタッフにまでスポットを当て、2024年の戦いを振り返ります。今回は西田哲朗広報が登場。周東佑京内野手から言われた忘れられない一言を明かします。「僕、そういうのやりたくないんですよね」。選手会長として、確かな成長を感じさせられた1年間。ハッと気付かされたという鋭い言葉は、どんな状況で言われたのでしょうか?

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 チームが前回優勝した2020年のオフに現役を引退し、広報に転身。“裏方4年目”で悲願のリーグ優勝を経験した。常々、「優勝が最高の露出」と語っていた西田広報は「素直にうれしいですね」とシーズンを振り返る。その中でも周東は今季から選手会長に就任しただけに、取材依頼も人前で発言する機会も増えた。選手会長として初めて発言した昨年11月のファン感謝祭「鷹奉祭」から、先日のリーグ優勝まで。周東の成長をどのように見守っていたのか。

「簡単に言うと、周東ってカッコ良くなりましたよね。顔つきが変わってきました。自信が表情に出ていると思いますし、WBCで世界一も経験して。僕がこの仕事から見て、偉そうに言わせてもらうと、めちゃくちゃ成長しているなって思います」

 今季は123試合に出場して、初の規定打席にも到達。打率.269、115安打、2本塁打、26打点という成績で、41盗塁はリーグトップだ。多くの面でキャリアハイの数字を残していることが、表情にも表れていると西田広報は代弁する。SNSの反響においても「僕らはインスタグラムの運営もしますけど、周東をトップにすると爆発的に数字も伸びます」と、ファンの増加も一番近くで感じてきた。

「読者プレゼント」というワードを、ファンの方々も聞き覚えがあるだろう。メディアが用意する企画のために、選手から直接サインやプレゼントをもらう時もあれば、広報が間に入る時もある。今夏の出来事。西田広報が周東にサインをもらおうとした。「その時もメディアさんのお願いでした。知り合いに頼まれたり、プライベートのサインをもらうことは僕は基本的にしないんですけど、受けないといけない時もあるんです。僕も“欲”をかいてしまって『これも書いてくれる?』って感じでお願いしたんです」。周東はポツリと、こう漏らした。

「僕、あんまりそういうのやりたくないんですよね」

 すぐさま西田広報は「あ、そうやんな」とハッとさせられた。周東が手渡してくれたのは打撃用の手袋だったといい「僕にやったら『どうぞ』みたいな、『使ってください』って感じで。その前にも言ってくれていたんですけど『視聴者プレゼントとかがあるなら、もう使わない手袋があるから使ってください』って、それくらい気の遣える選手なんです」。周東の優しさを誰よりも知るからこそ、反省した。

ソフトバンク・周東佑京(左)と西田哲朗広報【写真:竹村岳】
ソフトバンク・周東佑京(左)と西田哲朗広報【写真:竹村岳】

 選手からの転身とはいえ、今は選手と広報という関係性。リスペクトを貫いてきたはずが、ほんの一瞬で“下心”を見抜かれてしまった。当然、今となっては「公私混同になってしまったらあかんなって思いましたね。今は裏方ですから、その気持ちでいないといけない」と反省する出来事。ハッキリと言ってもらえたことで、見失っていた気持ちを思い出すことができた。

「商売道具ですけど、自分の破れた(打撃用の)手袋とかはあんまり見られたくない、とか。そういうことを佑京はハッキリと言えるんです。知っている人なら別ですけど、あんまり知らない人にそういうものはあげたくないんです、っていう。その時に僕も『今の職業やからもらえているんだ』って余計に思いました。基本的にはメディアの方からもらうために、僕もこの場にいるわけですから」

 2人の関係性も当然、影響している。中村晃外野手らも交えて周東とは頻繁に食事に行くそうで、西田広報からも自分の考えはハッキリと言葉にしている。「現場から一歩引いて見ている僕らの考えを、良いも悪いも伝えています。良いものは良いって伝えないと、僕らが何を考えているかもわからないですからね」。選手と広報。リスペクトをしっかりと抱いているとはいえ、現役時代から続く関係性だからこそ、周東も「やりたくない」と偽りのない思いを口にしてくれた。

「これはこないだ、本人にも話しました。『こういうことがあって、あれは自分でも公私混同になっていたわ』って。あれは自分でも情けないなって思いました」。もちろん、悪気はない。リーグ優勝した選手会長と、広報。どちらもプロであるからこそ、大切なものを思い出させてもらう出来事になった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)