シーズンを振り返っても「怪我を悔やんだ1年」…支えてくれた家族の存在を語る
ホークスが4年ぶりのリーグ優勝を飾りました。鷹フルでは、牧原大成内野手を単独インタビュー。育成ドラフトから入団し、今季が14年目のシーズンだった守備職人が、2024年を振り返ります。4月28日に右脇腹を痛めて戦線離脱すると、愛妻から「怒られました」。咳をするだけでも痛いという“重症”だった中で、家族は誰よりも厳しく、そして温かく牧原大のリハビリを支えてくれました。頂点に立てたから明かせる、家族との秘話の数々――。
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率直にシーズンを振り返った牧原大は「怪我ですね。怪我を悔やんだ1年です」と即答した。4月28日の西武戦、試合前練習中に右脇腹を痛めると、「右内腹斜筋損傷」と診断された。開幕してわずか1か月での離脱となり、「年々、怪我しないようにという思いは強いので、なおさら悔しかったですね」。結果的に72試合に出場して打率.286、2本塁打、13打点も「規定(打席)に乗っていないのでなんとも言えないです」と、誰よりも不甲斐なさを抱いていた。
4月28日、負傷した瞬間も「前兆はなかった」と予測はできなかった。「気が抜けての怪我だったらしょうもないんですけど、今回は練習をしての怪我だったので。別に抜いているわけでもなかったですし」と言う。できる準備は貫いていた。だからこそ、リハビリ期間から学ぶものも多かったそうで「重点的にストレッチだったり、ケアを入れるようにはなりました」と、長年重ねてきたルーティンにも変化があった。
長期のリハビリ生活に突入した。めったに弱音を口にしない男が「治る気がしなかった」と語るほどだった。「それだけ今までになかった痛みだったので。多少無理してできるレベルでもなかったですね。けっこう重症でした」と言う。過去には「制限の中でも、トレーナーさんが言うことを振り切ってやっていたこともある」といった経験もあるが、今回ばかりは「もう無理でしたね。シンプルに。それだったら(日々の状態をちゃんと)確認させてくださいって。本当に今回の怪我は無理でした」。牧原大ですら一歩ずつ進むしかないようなプロセスだった。
6月22日に実戦復帰するまで、約2か月のリハビリ生活。復帰した時には「家族の支えもありました」と語っていた。右脇腹を負傷して誰よりも悔しさを抱いたのは牧原大だったが、愛妻からは「最初は怒られましたね。怪我をしたことについても怒られましたし。でも、家族の支えがあったからリハビリにもしっかりと取り組めたと思います」と、今だから明かせるやりとりだ。言葉の中にはもちろん、愛情があることはわかっているが、どんな時も愛妻は厳しい姿勢で自分を支えてくれる。
「けっこう怒られますよ。しんどい時とか、野球を辞めたい時とかに言ったりするんですけど。『じゃあ辞めれば?』みたいな。止めてはくれないですね」
十人十色の夫婦の形。当然、「『だったら見とけ』って思いますね、僕は。厳しい言葉をかけられても、だったらプレーであったり復活して見返すしかないと思っていました」と反骨精神に変えてきた。グラウンドでは、結果が全ての世界。「彼女自身もいろんな仕事をしたりして、大変な思いをしていたと思うので。また(野球とは)全然違いますけど、だからキツい時もわかってくれているのかなって思います」。愛妻による偽りのない表現から、自分の苦しさを共感してくれていることは、十分に伝わっていた。
痛めたのは右脇腹。咳をするだけでも痛く、子どもを抱っこすることもできなかった。「(妻に)負担をかけてしまっているというのはありましたね。家でもできないことがたくさんあったので、その分、復帰して見返してやるじゃないですけど、『それしかできない』と思って過ごしていました」。復帰への思いを突き動かしたのは、負けん気そのものだ。いつも隣にいてくれることは、当たり前じゃない。2人で“約束”しているから、牧原大の感謝はどこまでも尽きない。
「家族のために頑張るというのは誰でもそうだと思うので。それが、当たり前と思わない。家族の中のルールとして、僕が野球をやってご飯を食べさせることを当たり前だと思うなっていうことも言っていますし、逆に家のことでも全部妻がやるのも、当たり前だと思わないようにしています。そういうちょっとしたリスペクトという部分を欠かしてしまったらダメだと思うので。何に対してもそうですけど、支え合いながらできているかなと思います」
怪我の悔しさが胸を占めていることは確かだが、チームは4年ぶりのリーグ優勝に輝いた。ポストシーズンが待ち受けているものの、オフはプロ野球選手にとって家族への感謝を表現するタイミングでもある。「シーズン中は家にいないことが多いですし、オフは自主トレもあるので。何もない時は1人で出かけさせてあげたり、旅行に行ってもらったりしているので。またそういう時間を作れたらいいですね」。そう語る牧原大の表情からは、純粋な感謝と、少しの照れが伝わってきた。
(竹村岳 / Gaku Takemura)