1軍舞台で川瀬兄弟が初対戦「夢のような時間とはこういうものなのかな」
「本当に夢のような時間とは、こういう時間のことだなと思いました」。最高の演出をしたのは、誰だったのか。「すまん」で生まれた兄弟対決だった。
ソフトバンクは13日のオリックス戦(京セラドーム)に8-3で勝利した。先発した有原航平投手が7回2失点で12勝目を挙げ、栗原陵矢内野手や山川穂高内野手、近藤健介外野手にも打点が記録されるなど、投打がガッチリと噛み合った一戦になった。敵、味方は関係なく球場が盛り上がったのは、6点リードの8回2死一、二塁。川瀬晃内野手が代打で登場すると、川瀬堅斗投手との兄弟対決が実現した。結果は、直球に詰まらされて二ゴロ。弟に軍配が上がったが、ドームの中で、確かに2人だけの時間が流れていた。
ファームでは対戦があった2人だが、1軍では初めて。チームの勝敗を背負った真剣勝負の中で生まれた兄弟対決だったのだから、感じた思いも格別だった。どんな経緯で実現に至ったのか。代打を出されたのは、3安打を放っていた牧原大成内野手。8回の攻撃中、小久保裕紀監督からこんな言葉をかけられたという。
「あそこは決められていたと思いますし、監督にも『すまんけど行かせてあげてくれ』って言われました。なかなか見られないところだったので、良かったと思います」
“演出家”となったのは、やはり小久保監督だった。指揮官自身も「その話はしていたんで、(川瀬)晃に。ある程度、『点差があれば』という話はしていた。なかなかないチャンスだったので」と明かす。「すまん」と頭を下げられて、打席を譲った牧原大。「なかなかないことなので、見られた僕も良かったですしね。なんか感動しました」と、粋な采配に胸を打たれた1人だった。
牧原大といえば、負けん気の強さが代名詞の1つ。過去には死球を受けた後、代打を出された采配に「正直イラッとした」と発言したこともあった。グラウンドへの執着は人一倍だが、このシチュエーションはやはり特別だったそうで「今日はちょっと違いましたね。3本打って、もう1本何とか打ちたかったですけど、川瀬のこともね。球場も盛り上がっていましたし、良かったです」。川瀬が抱く弟への思いを十分に知っていたから、牧原大自身もこの対戦が見てみたかった。
試合後、川瀬自身も感謝の思いを真っ先に口にした。
「まずは、優勝争いの中、マジックがある中で、監督が『準備をしておけ』と言ってくれて、兄弟対決を(実現)してくれたことに感謝したいと思います。あとは打席を代わった牧原(大)さん。きょうは3本打っているにも関わらず、打点チャンスでもありましたし。自分の成績がね、シーズンが終わったらあると思うんですけど。その中でも『頑張れ』って言ってくれましたし。いろんな人の感謝とかがあって、できた兄弟対決だったと思います」
優勝をかけた真剣勝負の中で、自分にチャンスをくれたことに頭を下げた。野球選手として、1人の兄として向かった打席で「僕の成績もありますし、チームのチャンスだったので。弟だから(気を遣って)三振するとかもないですし、僕も真剣にやりました」と振り返る。マウンドと、打席。白球を通した兄弟の“会話”は「力のこもった球を投げていましたし、最後は真っすぐで抑えにきたので、気持ちも伝わってきました。内容は完敗です」と、潔く脱帽だ。少しずつ込み上げてきた感情は、感慨深さだった。
「5歳離れていますけど、小さい頃から夜の公園で毎日ずっとキャッチボールしたりしていた弟と、まさかこういう舞台で対決できるというのは自分でも思っていなかったです。本当に、夢のような時間っていうのはこういうものなのかなと思いながら、打席に立っていました」
牧原大も、自分自身のことになると「バント失敗したのでダメです。全部、あそこです」とキッパリ言った。5回無死二塁で右前打を放ったが、追い込まれるまでに犠打で走者を進められなかったことを猛省した。当然だが、プロ野球はどんな時だって真剣勝負。だからいつも、ファンに感動を与える。
(竹村岳 / Gaku Takemura)2024.09.14