たった一言に込めた思いが、右腕をポジティブな思考へと変えた。痛恨の逆転負けを喫した4日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)。試合後には小久保裕紀監督の号令で今季4度目の全体ミーティングが開かれた。その後には投手陣だけのミーティングも行われた。それほどまでに、この敗戦のショックは大きかった。
この試合、3点リードの9回に登板した松本裕樹投手が先頭打者に四球を与えたところで、アクシデントにより降板した。その後を任されたドラフト6位ルーキー・大山凌投手が3連打を浴び3失点。追いつかれた状況でマウンドに上がった同2位・岩井俊介投手が勝ち越し打を許すと、ダメ押しの2ランも被弾した。勝利目前で待っていたまさかの展開。降板した大山はベンチで涙を流した。
ミーティングの第一声。大山に言葉をかけたのは倉野信次投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)だった。「まだ涙を流していたので……」と笑いながら振り返ったが、右腕が流した涙から感じるものがあったという。
「別に僕は涙を流したところで、情(が湧くこと)はないです」と冗談っぽく話した上で、さらに続けた。「(情が)ないことはないんですけど、そういうのはなるべく思わないようにしています。泣いたから頑張ってほしいなっていう思いも昔はありましたけど、逆にそう思わないようにしていますね。だけど、それ(涙を流す)くらいの思いがあるっていうのは、強い気持ちがあることの裏返しだと思うので。実は僕はいいことだと思っています」
指導者の中には、試合中に涙を流すことであったり、感情を出しすぎることをよしとしない人もいる。考え方はコーチによりけりだ。「涙を流すことがダメだっていう意味の泣くなではないです」。倉野コーチが頬を緩めたのは、大山の涙を見て、今後の期待値がさらに高まったと感じたからだった。
「そんなに背負わなくていいよ、っていう意味ですね。本人にも言いましたけど、泣けるほどの場面で投げられることって、プロ野球でそんなに機会はないんだよって。これがきっかけになって、本当にすごい選手になったねと言われるくらい頑張れということを言いました」
大山自身も「泣かなくていい」という倉野コーチの言葉で、気持ちを新たにできたと明かす。「試合も終わって、次のことを話していたので。もう切り替えようということだと思います。責任を感じなくていいって言われていたのもありますけど、1回区切りをつけたので。どんどん試合は続くので、切り替えようと思えました」と、言葉の意味をしっかりと受け取っていた。
その上で「普通に(打たれたシーンは)思い出しますね。でも悲観的なものではなくて前向きに。次はあの場面で抑えたいなとか、あの場面じゃなくてもマウンドに上がったら、もうもうもう、今度は攻めまくります」と大山は前を向く。
8日の西武戦(みずほPayPayドーム)では4日ぶりに登板した。2人の走者を出して、1イニングを投げ切れずに降板する結果となったが、この日は涙がなかった。「悔しいですけど、チームが負けなかったので。次こそしっかりと抑えたいです」。4年ぶりのリーグ優勝に向け、右腕の力は必ず必要となる。前を向いた大山なら、きっとやり返してくれる。