先輩らしい辛口のエールに、優しさが込められていた。ソフトバンクは8日の西武戦(みずほPayPayドーム)に3-1で勝利した。2点を先制した2回の攻撃で貢献したのが、正木智也外野手だった。前夜には得点圏で3度凡退し、敗戦の責任を背負った24歳。そんな若鷹の重圧を軽くしたのが、周東佑京内野手の言葉だった。「そろそろ打てよ」――。
相手先発はここまで7勝を挙げている新人左腕・武内。2回1死から近藤健介外野手が右前打を放ち、正木が打席へと向かう。2ボールからの変化球を左中間に運び二、三塁へとチャンスを広げた。その後、甲斐拓也捕手に2点二塁打が生まれ貴重な先制点に繋がった。小久保裕紀監督も「本当にあの2点タイムリーは大きかったし、(相手先発が)武内だったんでね。なかなか点は入らないなと思っている中だった」と手を叩いた。
試合前の時点で正木は9月打率.158。7日の同戦も、5回2死二、三塁で近藤が申告敬遠。満塁となり正木を迎えたが、空振り三振に倒れていた。ことごとく得点圏で打席が回ってくる。6番打者としての重圧を、深く感じた瞬間だった。一夜が明けた8日の試合前。いつものように体を温めていたところ、周東からこんな言葉をかけられた。
「そろそろ打てよ」
当然、2人は笑顔。「『打てよお前!』みたいな(笑)。すみませんって感じでしたけど、その方がよかったです」と、正木は具体的なやり取りを明かした。朗らかな雰囲気ではあったものの、辛口な表現からは選手会長の期待を大きく感じた。
「佑京さん、めっちゃ優しいですよね、僕を気遣ってああいう言葉を言ってくれたんだと思いますし。慰められても嬉しくないんですけど、ああやって言ってくれた方が僕としては嬉しかったです。1打席目に行く前も、佑京さんはベンチの後ろに座っていたんですけど、『気持ちよく振ってこい』『思い切って行け!』って言ってくれたので。やっぱりいい人やなって思いました」
周東は「『そろそろ打てよ』って言ったんですけど、本当に打ってくれたのでよかったです」と口角をあげた。当然、自分なりの思いやりで「この仕事は切り替えないといけないですから。塞ぎ込むじゃないですけど、あいつもあいつですごく考えていることがありますし、楽にできればいいかなと思いました」と語った。チャンスでも勇気を持って打席に向かい、正木なりに勝負する姿を見守ってきたから、言葉をかけた。
重圧が少しずつ大きくなる終盤戦。チーム状況も重なり、若手の力も借りながら1勝1勝を拾っていかなければならない。周東にとっても「(年齢が)下の選手が多いですからね。どうしてもこういう終盤、(動きが)固くなってしまったり、縮こまってしまったりしてしまう。変わらずにやってくれたらと思いますよ」と、結果でも姿勢でも後輩を引っ張りたい思いは強い。
6月21日から正木は1軍に昇格した。柳田悠岐外野手が離脱して以降、主に右翼のポジションを守り続け、周東とも右中間を組んできた。自然に会話も増えたといい、正木も「僕がルーキーの時からすごく話しかけてくれる。コミュニケーションを向こうから取ってきてくれます。だから僕からも(話しかけに)いきやすいですし、優しくて慕いやすい先輩です」と信頼を寄せている。
9月の打率を見れば、まだまだ苦しい状況であることはわかっている。周囲も手を差し伸べてくれるそうで、「練習している時も小久保監督と話をしました。『結局は一番やってきたこと、練習したことが、自分が戻れる場所になる。もう1回そこに戻ってやってみろ』ということは言われました」。結果が出ず、自分を疑いたくなるような期間だったが、指揮官の言葉もまた“原点”に戻るきっかけとなった。先輩たちの背中を見て、この終盤戦を突っ走っていきたい。
9月1日のロッテ戦(ZOZOマリン)以来の安打となった。「ヒットを打ったらベンチもすごく喜んでくれていましたし、コンさん(近藤)がランナーで三塁にいたじゃないですか。コンさんも僕の方を見て拍手してくれたし、ベンチに帰ってからも『ナイバッチ! 正木!』って言ってくれたので。皆さん優しいし、いい先輩たちです」。野球はチームスポーツだ。どんな時も、正木は1人じゃない。