甲斐拓也が授ける“勇気”…マウンドでどんな言葉をかける? 緊迫の9回も徹底した「再確認」

ソフトバンク・甲斐拓也(左)、松本裕樹【写真:竹村岳】
ソフトバンク・甲斐拓也(左)、松本裕樹【写真:竹村岳】

11日の楽天戦で9回に津森宥紀が登板…甲斐だけじゃなく栗原&今宮がかけた声

 捕手がマウンドに行く時、投手にどんな声をかけているのか。緊迫した場面だったからこそ、2度も足を運んだ姿が印象に残った。ソフトバンクは11日の楽天戦(みずほPayPayドーム)に5-2で勝利した。9回に登板したのが、津森宥紀投手と松本裕樹投手だった。楽天に一発が生まれれば逆転、という状況までもつれ込んだ一戦。重圧を背負った2人の投手に、甲斐拓也捕手がかけた言葉とは――。

 4回に山川穂高内野手が先制の22号2ランを放つなど、打線は5点を奪った。セーブシチュエーションではなかっただけに、9回にベンチが送ったのが津森だった。先頭の鈴木大に死球を与えると、続く阿部にも2ボールとなる。ここでホークスベンチからは倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)が飛び出し、マウンドへと向かっていた。

 結果的に阿部には四球。フランコに左前打とされたところで、甲斐が歩み寄る。マウンド上でかけられた言葉の内容を、津森が明かす。

「昨日の場合は『頑張ろう』っていうのしかなかったですね。『しっかり来い』『大丈夫やから』っていうのでした」

 阿部を歩かせたところでは、三塁の栗原陵矢内野手も言葉をかけてくれた。「クリさんも『大丈夫やから』っていう励ましの言葉をくれました。今宮さんも『お前どうした?』って、不安にさせてしまいました」。この日の津森の状態を見れば、ナインからは心配の声が多かったそうだ。津森も自分自身の状態が「正直、わからない感じです……」と話すのだから、その気持ちがバックにも伝わっていたのかもしれない。

ソフトバンク・甲斐拓也(左)、津森宥紀【写真:竹村岳】
ソフトバンク・甲斐拓也(左)、津森宥紀【写真:竹村岳】

 小郷に中前へ2点適時打を許し、ここで松本裕に投手交代。倉野コーチから新しいボールを受け取ると、甲斐と2人だけで言葉を交わしていた。「サインの確認です。みんな1人1人、サインが違うので」と松本裕が明かす。十分、頭を整理した上でマウンドには上がっているものの、万が一の失敗がないように徹底した準備だった。

 追加点は許さないまま、2死までたどり着いた。満塁で浅村を迎えたところでもう1度、甲斐がマウンドに向かった。グランドスラムが生まれれば、一気に逆転される場面。「あの時は長打、ホームランが一番ダメなので。最悪、四球でもいいからしっかりとクサいところで勝負していこうということでした」と、バッテリーでビジョンを擦り合わせた。打者に向かっていく気持ちを最大限に高めていた松本裕。興奮もあったというが「ホームランで一発逆転。浅村さんでしたし、自分の中でもそういう考えでしたから」。甲斐の言葉に耳を傾けて、結果的に直球で押すことを選択した。

「まずは初球、いいところでのスライダーで空振りが取れました。追い込んだファウル(3球目)も、しっかり前でさばけているものではなかったので、一番ミスが少ないのが真っすぐだと思いました。変化球の投げミスで浮いてしまうよりも、安全かなと」

 1試合の中で捕手がマウンドに行けるのは3回。延長戦を含めると、最大で4回だ。高谷裕亮バッテリーコーチは、捕手がタイムを取る目的は「間(ま)を取ることと、状況確認です」と言う。津森&松本裕のもとに足を運んだ甲斐に当てはめても「あそこがポイントになる場面でしたし、時間をかけていいところでした。状況によって『あの時はこう』『この時はこう』っていう再確認として行くことが多いです」と解説した。捕手との呼吸を合わせれば、打者に向かっていくだけの勇気も自然と湧いてくる。

「丁寧に行くことと、大事(だいじ)に行くこともまた少し違う。その中でも『これはOK』『これは割り切れる』っていう確認をして、じゃあどうやって抑えるのかっていう話をあの数十秒でしますね。(自分が現役の時も)僕は本当に確認だけというか『短打はOK』って、逃げ道と言っていいのかわからないですけど、いろんなものを含めた確認作業。あとは、腹を括って行くための準備です」

 有原航平投手も、甲斐のブロッキング技術はこれまで組んだ捕手の中でも「一番」と表現していた。スライダー、フォークを操る松本裕も「ランナーが三塁にいても、気にして投げたことはないですね。それくらい信頼して変化球も投げられています」と頷く。技術に加えて、抜け目のない徹底的な準備があるから、甲斐拓也は投手から信頼される。

(竹村岳 / Gaku Takemura)