“第3捕手”に指名…栗原陵矢の胸中は? 高谷裕亮コーチが明かす備えと首脳陣の思惑

ソフトバンク・栗原陵矢【写真:竹村岳】
ソフトバンク・栗原陵矢【写真:竹村岳】

開幕1軍の捕手は甲斐と海野…首脳陣が「第3捕手」に栗原を指名した背景

 開幕は「捕手2人」で迎えることになった。ソフトバンクは28日、京セラドームで全体練習を行った。開幕1軍入りとなった選手たちが、緊張感を持って練習に臨む。その中で、姿を見せたキャッチャーは甲斐拓也捕手と海野隆司捕手だった。競争してきた1人、谷川原健太捕手はオープン戦で打率.091と結果を残せず、2軍で再調整へ。“捕手2人体制”で2024年、シーズンインする。鷹フルは高谷裕亮バッテリーコーチと、3人目の捕手に指名された栗原陵矢内野手の胸中を単独取材した。

 高谷コーチは「監督が言っていたことが全てです」と、指揮官の考えを強調する。その上で「3人目って使うところが、ないこともないんですけど最後の最後になってしまう。そこが難しいところでもある」と、捕手登録の選手をベンチに3人置いておくことで起用が“被る”ことに同調した。現役時代には“抑え捕手”とも呼ばれ、さまざまな方面からバッテリーを支えた高谷コーチも「2人って僕はあんまりなかったんですよね。でも2人だから、3人だからってあんまり考えたこともなかったです」と振り返る。

 開幕1軍入りした選手の中で、捕手登録の経験があるのは栗原と近藤健介外野手。1軍の公式戦で栗原が最後にマスクを被ったのは、2021年4月4日の西武戦(PayPayドーム)だ。首脳陣はどんな思惑で、栗原に3人目の捕手としての役割を期待しているのか。高谷コーチが強調したのは、想定しているのはあくまでも“最悪の想定”であるということだった。

「結局それって、万が一何かが起きた時って、キャッチャーが怪我して出られないとなった時なんです。ということは、普通に考えたら、それって1日だけのことなんです」

 甲斐が先発して、途中から海野がグラウンドに立ったとする。基本的に首脳陣から海野を代える選択肢はほぼないと言っていいだろう。それでも骨折などの怪我や死球など、不測の事態が起きる可能性もある。「次の日のことは、次の日にどうするのかっていうこと。(離脱選手を翌日に登録抹消して入れ替える)選択肢にもなる」と高谷コーチ。栗原にマスクを被らせるとしても、緊急事態が起きた試合の中で、短いイニングを一時的にしのぐためだと強調する。

 離脱した捕手がいれば、翌日に2軍から別の捕手を補充すればいい。「栗原が第3捕手」という言葉が独り歩きしがちではあるが、首脳陣は栗原にマスクを被らせないためのタクトを振るつもりだ。栗原の左膝のことは、高谷コーチもしっかりと配慮しており「『大丈夫、捕れればいい。あとはこっちでなんとかするから』って」と、ベンチからサインを出す可能性も示唆する。「ワンバウンドを止めろ、盗塁を刺せ、って言っているわけじゃないですから」と捕手として求めるハードルも当然、低くなることも付け加えていた。

ソフトバンク・高谷裕亮バッテリーコーチ【写真:竹村岳】
ソフトバンク・高谷裕亮バッテリーコーチ【写真:竹村岳】

 栗原本人にも、首脳陣の思惑は伝えているという。その上で「『どうしよう』って感じでドキドキはしていましたよ」と代弁する。栗原本人の胸中はどうだろうか。

「(具体的な)やり取りとかは特にないですけど、監督に言われて、高谷さんとも話をしました。僕は一生懸命やるだけです」

 捕手としての実戦感覚や、膝の状態についても「やっていないので、わからないですね」と話すしかない。その上で「僕はもう首脳陣の方々の、はい」と、方針を受け入れて、前だけを向いていた。願いたくはない緊急事態だが、チームのためなら頷いてミットを手にする構えだった。

 捕手がベンチに2人いるのか、3人いるのか。ベンチの采配も当然、変わってくる。高谷コーチも「そこは展開次第じゃないですか。2人だから使えないって感じでもないと思うので。(捕手2人では)よく『絶対キャッチャーは代えられない』っていうじゃないですか。今ってそういうのではないとも思う」と言う。捕手2人ならではの戦い方については、首脳陣もイメージを繰り返している。

 栗原を捕手として起用することは、チーム全体として乗り切らないといけないほどの緊急事態。「そこはもう、そういう試合、展開になっているということですから。それはもう何かあったら(栗原を使う選択を)行かないといけない。そうなった時に『心の準備だけしておいてくれ』ということだと思います」と最悪の事態を想定していた。可能性は限りなくゼロに近いとしても、備えるのがプロ。選手たちがそれぞれの持ち場で輝くように、非常事態が起きないことを首脳陣も願っている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)