想定していた開幕ローテは「18通り」 常に備えた“緊急事態”…倉野コーチの徹底的な準備

ソフトバンク・倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)【写真:竹村岳】
ソフトバンク・倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)【写真:竹村岳】

今月中旬には「8人」で先発ローテを回す構想も…「いろんな懸念材料がありました」

 思わぬ離脱とはなってしまったが、緻密な備えが生きることになった。用意していた想定は「18通り」だ。ソフトバンクの和田毅投手が、内定していた4月2日のロッテ戦(PayPayドーム)の登板を回避することになった。「指の部分をまずは戻さないと……。フォーム的にも崩れている部分をしっかりと修正しないと」と、うつむきながら語る。痛すぎる離脱となった一方で、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)の徹底的な“備え”が発揮されることにもなった。

 和田は26日、広島戦(タマスタ筑後)で先発したが2回2/3を投げて5失点で降板した。投ゴロが左手に当たってしまい、緊急降板となった。一夜明けたこの日、首脳陣の方から止める形で登板をずらすことになった。倉野コーチは「状態的には上がってきていたので間に合う手応えがあったんですけど、当たった部分と、あとはマメがそれ以上に深刻な状況だった。本人は責任感があるので迷っていた部分があったんですけど、それなら絶対にやめた方がいいっていうふうに言いました」と会話の一部を明かす。

 和田の代役として4月2日に先発することになったのは、大関友久投手だ。昨年には自身初の開幕投手を務め、今オープン戦でも3試合に登板して防御率1.64。小久保裕紀監督は就任直後から和田を開幕ローテ入りさせる考えを明かし、今年2月には日付まで明言して調整を託してきた。痛すぎるベテランの離脱の裏側にあったのは、倉野コーチの完璧と言えるほどの準備。競争の中にいる選手を見極めながら、これだけのプランを練っていた。

「僕、18通り考えていましたからね」

 今月中旬には、先発ローテを8人で回す考えも明かしていた倉野コーチ。そして目線は下げつつ「開幕ローテーションを18通り、その中の1つだったという話です。2週間前くらい前に考えた。(開幕ローテーション候補が)出揃ってきた時に『あ、18通りくらいあるな』って。いろんな懸念材料がありましたからね」と続けた。誰がどうなっても、ローテーションを動かせる準備をしていたのだ。

 思わぬ事態でも、ためらうことなく大関を抜擢できた具体的な理由がある。倉野コーチは「実は、大関にはいろんな可能性があるというのは伝えていたんです。僕の中ではいろんな懸念材料があったし、そう(非常事態)なった時に備えるのが僕の仕事。それは何週か前に話していました」と、登板日がずれる可能性をあらかじめ伝えていた。今回、離脱することになったのは和田だが、誰を欠いても問題ないだけの準備を首脳陣はしていた。

 オープン戦で大関は土曜日の登板があり、シーズンでも4月4日のロッテ戦(PayPayドーム)、開幕6戦目の木曜日に先発する見込みだった。倉野コーチも「1か月くらい前(誰か欠員が出た時の)から想定はしていました。(メディアの)皆さん『大関が土曜日(開幕2戦目)』って書いていたので、違うのになって思って見ていました。もともと土曜日ではなかったですから」と笑う。地方球場での登板も豊富な大関。その能力を評価していたから、柔軟に対応するという重要な役割を任せることができた。

「大関は登板間隔が縮まろうが長くなろうが、どんな条件、環境、日程でも対応できるタフさがありますので。それはすごくこっちとしては評価しているというか。他の人ができないわけではないですけど、高いレベルで対応してくれるっていうのは、大関に対する僕らの評価でした」

ソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】
ソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】

 この日の朝、大関は和田と顔を合わせたといい「『申し訳ないけど頼んだ』というふうに言われましたので『しっかり頑張ります』という言葉で返しました」と会話を明かす。今後はファームでの登板は挟まずに、4月2日を迎える予定。大関自身も「そもそも試合に合わせるというのが先発投手。何日と決まっていた方がルーティンは固まってきますけど、そこにあまり固執したくもなかった」と、柔軟な姿勢で調整してきたつもりだ。

 中継ぎにも離脱はあったが、しっかりと備えをしていた。長谷川威展投手が体調不良となり、ドラフト4位の村田賢一投手(明大)が1軍に合流。開幕1軍入りすることになった。長谷川はオープン戦で6試合に登板して防御率0.00。ダーウィンゾン・ヘルナンデス投手も離脱中で、ブルペンはサウスポーを欠いて戦うことになった。そこにも、倉野コーチなりの考えがにじむ。

「そんなに左右にこだわっていないです。実際、中継ぎに左投手はいないんですけど、あんまりこだわっていないですね。右投手でも左打者を抑えられる人材を揃えていると思っていますので。全く不安はないです」

ソフトバンク・村田賢一【写真:竹村岳】
ソフトバンク・村田賢一【写真:竹村岳】

 ロベルト・オスナ投手という守護神を中心にして、両輪に藤井皓哉投手と松本裕樹投手がいる。杉山一樹投手や又吉克樹投手ら、バリエーションに富んだ面々を揃えたつもりだ。村田はウエスタン・リーグで2試合に登板して防御率0.73。倉野コーチも「ストライク率が高いので、四球から自滅することがない。そういう投手は中盤のロングとか、イニングを稼いでほしい時に最適なんです」と起用を具体的にイメージしている。これだけ全てに備えている倉野コーチならきっと、長いシーズンを乗り切ってくれるはずだ。

 和田も、ドームから帰路に着く際に取材に応じた。「自分も突き指よりもマメの方が危ないなっていう部分があって、投げるたびに悪化していた」と言う。状態が上向き、指のかかりが強くなってきた証ではある。話しながら、左手は上着のポケットに入れられていたため目視で確認はできなかった。今後は1軍に帯同し、登板時はファームのマウンドに立つ予定。「監督から早くにおっしゃっていただいたのに、そういう調整ができなかった。謝りましたし、申し訳ない気持ちでいっぱいです」と前を見る。和田の力も、絶対に必要になる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)