オープン戦で取り入れた“半身の構え” 変わっていく重要性…甲斐拓也に聞いた意図

ソフトバンク・甲斐拓也【写真:竹村岳】
ソフトバンク・甲斐拓也【写真:竹村岳】

オープン戦で時折見られた“半身の構え”、その狙いとは…?

 昨日の自分より、少しでも上手くなりたい。現状維持でいいわけがない。そんな思いを胸に抱え、日々を過ごしている。オープン戦が終わり、いよいよ開幕を迎える日本のプロ野球。オープン戦で勝率1位となったソフトバンクの甲斐拓也捕手は、去年とは違った取り組みを、オープン戦で見せていた。

 甲斐がキャンプ、オープン戦でマスクを被る際に時として見せていた、これまでと違う“変化”に気付いたファンもいるはずだ。マスクを被り、投手と向き合う。サインを送ってから「さあ」という時の構え方が、時々、普段と違うようになっていたのだ。

 特に大きな変化は左バッターのアウトコースに構える際だ。投手に対して正対するのではなく、キャッチャーミットをはめた側の左肩を前に出し“半身”のような状態で構える。そのままボールをキャッチするのだが、これまでに見られない動きだった。この構えの意図はどこにあるのか。甲斐はこう説明した。

「キャッチングの面でもそうですし、ピッチャーにもいろいろ話を聞いて、それで『壁ができて投げやすい』というピッチャーもいるので。この期間、時期なんで、いろいろと試しています。ピッチャー全員ではないです。いろいろと話をして(投げやすいという投手と)分けてやるっていう感じです」

オープン戦で時折見られた“半身の構え”【写真:竹村岳】
オープン戦で時折見られた“半身の構え”【写真:竹村岳】

 より良い捕手になるため模索をする中、新たな取り組みとして構え方にも工夫を凝らした。個々の投手とコミュニケーションをとる中で、半身で構えることによってゾーンの“壁”の意識をつけやすいという投手がいた。また、半身になることで、左打者のアウトコースのボールに対して“フレーミング”もやりやすくなる。それが、この“半身構え”を取り入れた理由だという。

「まだまだできると思ってやっていますし、野球人生はこれからだと思ってやっています。もう一度、新たに今年はイチからっていう思いでいます」。こんな思いを胸に秘めて、プロ14年目のシーズンを迎えた。メジャーリーグのトレンドもあり、近年、日本球界でも目まぐるしい変化が起こっている。甲斐は「捕手の部分でも大きく変わってきている部分がたくさんある。この1年でもそういった変化をものすごく感じる」という。

 トラッキングデータを活用したり、米トレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」のようにデータ、動作解析を駆使して技術向上を図ったり、と、野球もどんどん科学を活用するようになっている。ホークスでもデータサイエンスに力を入れており、当該部門を強化、拡充している。そうした球界に起こっている変化を、甲斐は第一線に身を置き、直に感じているからこそ、自身の変化の必要性も痛感する。

「多分、これからもっといろいろ変わってくると思うので、そういったものを取り入れていきたい。今までのままでいいわけではなく、どんどん野球も進化していくと思うし、捕手もいろいろ変わってくると思うので。去年のこの時期と比べても、変化が出ている部分っていうのは感じている」

 これまで捕手の評価基準とされたブロッキングの技術や盗塁阻止率のような数字だけでなく、盗塁抑止やフレーミングといった新たなトレンドが球界には広がりつつある。ホークスでは、2023年1月の自主トレで甲斐が教えを乞うたキャッチャーコーチの緑川大陸(ひろむ)さんを昨秋、そして今春のキャンプに招き、球団としてフレーミングの技術を取り入れようとした。コーチを務めるOBの多くにはその知見がなく、フレーミングを技術として教えることができないからだった。

 いまだに「フレーミング」を、過去の“ミットずらし”と同義のように扱う声もある。ただ「フレーミング」はメジャーリーグでも捕手の重要なスキルとされる、れっきとした技術。ボールをストライクに見せる“審判を欺く”ようなものではなく、ストライクゾーンのボールをしっかりとストライクと判定してもらおうというものだ。近年はトラッキングデータをもとに球団内でもそのデータは収集されている。有効性は数字でも証明されており、一昨季から昨季にかけて、甲斐はその指標を飛躍的に向上させていた。

「フレーミングにしても何にしても『そんなことはするな』『ミットは動かすな』と、今でもそう言う人はいると思うんです。ただ、なぜそうした方がいいのかっていうのはもう数字にも表れている。ということは、大きく変えていかないといけない部分だと思う。去年やり始めて、僕もいろいろ言われましたし、他球団の人の話を聞いても『そんなことするな』っていう人もいるみたい。ただ、何年か前の野球と今の野球では変わってきている部分が大きくあるんです」

 球界を取り巻くトレンドを選手たちは誰よりも強く感じている。だからこそ、日々、成長や変化をしていく必要性にかられ、新たな取り組みを模索している。より良い捕手になるために、より投手が投げやすい捕手であるために、周囲とコミュニケーションを図って、己を変えようとしている。オープン戦で見られた“半身の構え”。それもまた、より良い捕手になるための試行錯誤の形だった。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)