サイン球に記した「売らないで!」 和田毅からのメッセージ…選手たちにもわかる“転売ヤー”の存在

サインボールを投げ込むソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】
サインボールを投げ込むソフトバンク・和田毅【写真:竹村岳】

牧原大成は8日にXに投稿「何でサインを貰って売るんですか?」 舞台裏を明かす

 ソフトバンクの春季キャンプは、第3クールを終えました。キャンプは選手とファンの距離感が近いことも魅力の1つ。土日祝日の練習前には、選手がスタンドに直筆サインボールを投げ込むのも見慣れた光景です。そんな中、和田毅投手が込めたメッセージは「売らないで!」。ファンとの距離感とは選手にとっても永遠のテーマ。和田投手だけでなく、板東湧梧投手、牧原大成内野手にも考えを聞きました。牧原大選手は「腹が立った」という出来事があったと明かしました。

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 こんな悲しいメッセージはきっと、あってはいけない。10日から12日は3連休で、11日には最多の2万6200人のファンが宮崎の生目の杜運動公園に訪れた。練習前にはキャンプ恒例、選手たちがスタンドにサインボールを投げ入れる。1球1球に思いを込めて、ファンに届けていたのが和田毅投手だった。自分のサインを書くだけではなく、一筆添えた言葉は――。「売らないで!」。

 キャンプは「球春」とも呼ばれ、接点の少ないシーズンとは違って、選手とファンの距離感が近いことも醍醐味の1つだ。練習の合間や、帰りのバスに乗る前など、選手はファンのためにペンを走らせる。週末には球団がサイン会をセッティングして、ファンとの交流の場を設けてもいる。状況にも応じながら、ファンサービスの形はそれぞれだ。

 土日祝日の全体集合の前。ベンチにはサインボールとペンが用意され、ウオーミングアップの前に選手はスタンドにボールを投げ込む。なぜ和田は、自身のサインボールに「売らないで!」と記したのか。

「去年ピンクで書いたものが売られていたから。これ書いたら売られないかなと思って、そう書きました」

 14日がバレンタインデーで、サインもピンクのペンを使用していた。昨年の経験も踏まえて、強く記憶に残っていたようだ。「初めてな気もするし、初めてじゃないような気もします」と振り返るが、転売などに使われないように思いを込めたことは確か。過去には自身のインスタグラムに、自身が書いたサインが転売されているスクリーンショットを投稿。和田の活躍を心から願う声にはもちろんだが、一方でファンのネガティブな一面にも、和田は敏感だ。

 今月21日には43歳となる大ベテランだが、この日もランニング場からロッカーに帰る道でサインをしていた。きっとほとんどのファンが“いい人”だろう。だからこそ、マナーの悪い人たちこそ選手の目にも留まり、目立ってしまう。「子どもに群がって、大人がボールを取っていったりしちゃうしね。それは嫌だなと思います」と選手はファンの1人1人の顔をしっかりと見ている。ルールと、周囲の方々へのモラルをしっかりと持ち、リテラシーの高いファンが報われてほしいと願うのは、選手も同じだ。

「(転売は)仕方ないと思いますけど、もしも本当にほしい子どもさんに渡ったら(自分が書けば)無料だったのにな、とか。お金で渡すのなら、0円で渡してほしいです。どうせ売られるなら、値段がつかない方がいい。売ってもいいんですよ、売ってもいいんですけど、0円で売ってほしい気持ち。本当に渡ってほしい人に渡ってほしいですね」

ファンへのサインに応じるソフトバンク・板東湧梧【写真:竹村岳】
ファンへのサインに応じるソフトバンク・板東湧梧【写真:竹村岳】

 板東湧梧投手は、和田のもとで自主トレを行って2年目。和田も「板ちゃんが来るようになってからだよ」と、長崎まで足を運ぶファンが目に見えてわかるほど増えたと語る。「和田さんはそれ言ってくれますよね」。板東も積極的にファンサービスをする選手の1人で、10日からの3連休、ファンの多さには驚いていた。どんな意識を持って、ファンとの距離感を意識しているのか。

「声をかけてもらったらできるだけ応えたいという思いは誰しもが持っていると思います。その中でも書けない時は申し訳ないなと思いますし……。でもやっぱり、時間がある時はできるだけ応えたいですよ。みんなどう思うか、わからないじゃないですか。僕が書かない時の姿を見ている人もいるわけで、そこはちょっと複雑な気持ちになりますね」

 和田のもとで自主トレをして、心技体の全てから成長のヒントをもらってきた。当然、ファンとの距離感についても、和田からは勉強させてもらっている。「和田さんの対応を見ていると、自分たちもしっかりしないとなって思いますよ」と、どんな時もお手本にしている大先輩だ。板東は、自身の転売などについては「興味がないのでわからないです。僕は気にしないですけどね」という。そして「ただ……」と付け加えるように言った。

「“それっぽいな”って人はいますよ。ほとんどがいい意味ですけど、悪い意味でもファンの方から伝わってくる時はあります」

 ファンの目線は選手に集中する。選手がサインを書く時は、多くのファンと相対する形になるが、きっと思っている以上に選手はファンをしっかりと見ている。自分のグッズを身につけていれば目に飛び込んでくるし、ルールを守っているのかどうかも、これだけ書いていれば自然とわかるようになってくる。板東も「意外とわかりますよ。だから、書きたいなって人も見えてきます」と自分なりの視点は大切にしているつもりだ。

「ファンの人たちと気持ちよく接したいので、周りの人への配慮も考えてもらえたら。ファン同士も、選手とファン同士の関係も、できるだけ気持ちいいものでありたいと思います」

ファンサービス中のソフトバンク・牧原大成【写真:竹村岳】
ファンサービス中のソフトバンク・牧原大成【写真:竹村岳】

 牧原大成内野手は、自身のX(旧ツイッター)で8日に「何でサインを貰って売るんですか?」(原文まま)と投稿した。自分のサインが転売されているところを「見かけたのもありますし、そういう同じような人たちに腹が立ったのもあったので。そんな思いを込めて書きました」と舞台裏を明かす。「(売るかどうかは)その人はその人の人間性次第ですから。かといって書かないわけにもいかないですし……」と話す表情は複雑そうで、悲しそうでもあった。

 最大のファンサービスは個人の活躍と、チームが勝利すること。そして、優勝することだ。和田は、マウンドでは魂と人生を乗せて白球を投げ込む。ファンサービスとして届ける1球1球も、気持ちの深さは同じだ。「それ(投げ込んだサインボール)を取ったことで思い出になってほしいです。『あの時に取ったボールだな』みたいな。その人にとって、その時の思い出になってほしい気持ちですね」。応援するということは、どんなことなのか。“カッコいいファン”でありたいと、自分自身にも言い聞かせたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)