あえて挙げた育成制度の課題…なぜ新星が誕生しない? 和田毅が語る独自の“考察”

契約更改交渉に臨んだソフトバンク・和田毅【写真:藤浦一都】
契約更改交渉に臨んだソフトバンク・和田毅【写真:藤浦一都】

会見で呈した苦言「育成はプロ野球選手ではない」 唯一挙げた若鷹の名前とは

 プロとして何度も修羅場を乗り越えてきた人間の、偽らざる本音だった。ソフトバンクの和田毅投手が25日、PayPayドームで契約更改交渉に臨んだ。3500万円アップの年俸2億円(金額は推定)でサインすると、会見で口にしたのは若手選手への苦言だった。「育成のホークス」とさえ呼ばれたチームだが、2023年に育成から支配下となったのは1人だけ。なぜ新星が生まれなくなったのか、考察を明かした。そして和田の目に止まり、唯一名前を挙げた育成選手の名前とは。

 今季は21試合に登板して8勝6敗、防御率3.24。1年間、大きな離脱をすることなくチームに貢献し、チーム2位の白星を挙げた。「個人的な成績で言うと昨年よりよかったですけど、それがチームの成績に直結していないのが一番いけないこと」と、順位に目を向けるのが和田らしい。3年連続でV逸した悔しさはある。その一方で、自分自身の存在感をもう1度示すようなシーズンだったことも確かだ。

 代表インタビューの中で、質問が飛んだ。「優勝を知っている和田投手だからこそ、後輩、若い選手に“思うこと”というのはどんな思いがあるでしょうか」。2024年もパ・リーグ最年長の選手として迎え、日米通算163勝。「これは阪神に移籍した大竹(耕太郎)が育成で入ってきた時に言った言葉なんですけど……」と切り出す。勝負の世界において、常に結果で応えてきた和田だからこそ、嘘は付かなかった。

「育成の選手はプロ野球選手ではないと自分は思っている。ユニホームを着てプレーはしていますけど、僕は贅沢だなと。メジャーの世界だと3Aや2A、マイナーの選手たちは違うユニホームを着てプレーしている。メジャーに上がらないと、そのユニホームを着られない。その中で育成の選手でも、いわゆるメジャーのユニホームですよね。3桁とはいえ、メジャー(ホークス)のユニホームを着てプレーができる」

「ソフトバンクホークスというチーム名を背負ってプレーができるのは本当に贅沢なこと。それを認識して日々を過ごしているのか、疑問に思うことはたくさんあります。球団の考えに僕が言うことはありませんけど、本当に贅沢だなと。ユニホームを変えてもいいんじゃないかという、違うユニホームでプレーしてもいい。せめて2軍の試合に出たくらいからソフトバンクホークスのユニホームを着られるくらい。それくらいから神格化したユニホームにしてもいいと個人的に思います」

契約更改交渉に臨んだソフトバンク・和田毅【写真:藤浦一都】
契約更改交渉に臨んだソフトバンク・和田毅【写真:藤浦一都】

 和田自身も2012年オフに海外FA権を行使して米大リーグに挑戦した。トミー・ジョン手術も経験するなど、4年間でメジャー通算21試合登板に終わるが「あの経験があったから今がある」と胸を張れるのは、ハングリー精神だけは忘れずに野球と向き合ってきたからだ。球団との交渉の席で若手についての話をしたわけではないが、胸に秘めていたことはしっかりと会見で言葉にしてみせた。

 牧原大成内野手も20日の契約更改で「自覚を持ってやらないと終わってしまう」と言った。3年契約を結べるまでに育成から這い上がったからこそ、説得力がある。事実、2023年も支配下枠は67人でスタートしたが、3桁から2桁になったのは木村光投手だけだった。木村光も、終わってみれば1軍登板はなし。かつて「育成のホークス」とまで呼ばれた球団から、なぜ新しい星が生まれないのか。和田なりに、その理由を考察する。

「それだけ育成の選手が増えていますし、たくさんになればなるほど楽にしたいと思う人がいればそっちに流されてしまうところもあると思う。人数がたくさんいるので、その狭き門を通るのは育成制度が始まった頃に比べれば大変なことだとは思いますけど、でもそれを承知の上で、覚悟の上でホークスに入ってきている。そういう姿を見たいというのは、個人的に感じます」

 今季からは4軍が新設された。人数が多くなるほど当然、端まで細かく管理する必要がある。和田自身も1軍に身を置いて、筑後での残留練習でファームの選手と少し交流する程度だが、それでも目には余った。「全てを把握はしていないですけど」とした上で「昔の千賀(滉大)や拓也(甲斐)、牧原(大成)、彼らの話を聞いてもその時の空気感ではないのかなと思う」と続ける。今やメジャーリーガーとなった千賀は育成のことを「底辺」だと表現していた。3軍発足からも13年が経ち、選手も球団も変わらないといけないのかもしれない。

契約更改交渉に臨んだソフトバンク・和田毅【写真:藤浦一都】
契約更改交渉に臨んだソフトバンク・和田毅【写真:藤浦一都】

 日本と米国で当然、制度に違いもあるだけに単純な比較はできない。米国の4年間で、メジャーという大きな夢を目指す選手を山ほど見てきた。自分もその1人だった。「アメリカは、明日クビになるかもしれないんです。日本は最低でも1年間は保証されますけど、向こうは1か月くらい打てなかったらクビになる可能性もあるので。それこそ必死ですよね。僕の場合は年齢も30歳を超えていたので」。明日、野球選手じゃなくなるかもしれない。その重圧と現実は、確実に自分を成長させてくれた。

 比較するようなものじゃないとしても、這い上がらなければならない今の育成選手から、伝わってくるものがない。「上がる覚悟というか。どういう気持ちなのかは人それぞれだと思いますけど、ちょっと甘いかなと」とキッパリ言い切る。唯一、名前を挙げたのは「本当に這い上がりたいんだな、1軍でプレーしたいんだなって思うのは、仲田選手くらいじゃないですかね。僕の目に入るくらいなので、見落としているかもしれないですけど」と仲田慶介外野手だけだった。育成選手たちにとっても、支配下になれていない結果が全てだ。

 和田は来年2月に43歳となる。いつまでも現役でいたい気持ちと同じくらい、自分を脅かす選手の誕生も願っている。なぜこの契約更改でハッキリと若手への苦言を発したのか、理由を問われると「若い選手が出てこないとチームは強くならない。オリックスが連覇しているのも、若い選手が出てきているから」と語る。若手からの挑戦を“受けて立つ”側の選手にとっても、和田は「張り合いがない」と表現する。それほどまでに、次のスターの誕生を待っているからだ。

「本来なら、自分がこんな形でまだまだ現役というよりは、若い選手が出てくることで『もう和田選手、大丈夫ですよ』っていう、それが普通だと思う。出てきている若手に対して僕らももっと上に行こうとするでしょうし、抜こうとする若手がいるからチームは強くなる。今のままじゃ、今いる選手も張り合いもないと思うので。『ちょっとやべえな』っていうのがあって当たり前というか、そういう雰囲気があるチームが強いと思います」

 取材に対して、常に丁寧に応じてくれる和田。ここまでハッキリと厳しい言葉を口にする姿を見たのは初めてだった。他人事ではない、全ての育成選手に対してのメッセージ。今一度、立ち直って考えなければならない。プロ野球選手とは、どうあるべきなのか。

(竹村岳 / Gaku Takemura)