「明日12時半に来い」尾形崇斗の人生を変えた日 守護神オスナにぶち壊された固定概念

ソフトバンク・尾形崇斗(左)とロベルト・オスナ【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・尾形崇斗(左)とロベルト・オスナ【写真:荒川祐史】

2軍で最多セーブのタイトル獲得「オスナが自分の固定概念を壊してくれた」

 師匠の教えが自分を変えてくれた。ソフトバンクの尾形崇斗投手は7日、本拠地・PayPayドームで契約更改交渉に臨み、100万円増の年俸900万円(金額は推定)で来季の契約を結んだ。会見で口にしたのは来季の残留が決まっている守護神のロベルト・オスナ投手への感謝。「オスナが自分の固定概念を壊してくれた」と口にした。

 尾形は今季1軍で0勝1敗、防御率4.00の成績だったものの、12試合はプロ6年目で最多の数字。1軍では3度、昇格と降格を繰り返した一方で、小久保裕紀監督が率いた2軍では守護神を任された。41試合に登板して2勝1敗16セーブ、防御率0.98の好成績を残し、ウエスタン・リーグの最多セーブのタイトルも獲得した。

 今季は自己最速を更新する157キロをマーク。ストレートの平均も150キロを超えるようになり、明らかな成長を遂げた。進化のキッカケとして名前を挙げたのがオスナの存在だった。

 6月のある日の出来事だった。試合中に出番に備えてピッチング練習を行っていると、その背後からオスナがジッとそのボールを見守っていた。ピッチングを終えると、通訳を通じてこう語りかけられたという。

「お前は俺のトレーニングについてこられるから、明日から一緒にトレーニングをやるぞ。明日、12時半にドームに来い」

 突然の“合同トレーニング”の誘い。翌日、指定された12時半にPayPayドームを訪れると、オスナが待ち構えていた。初めて一緒に行ったトレーニングは尾形にとって目から鱗だった。

「試合前なのに200キロくらいのバーを担いでウエートトレーニングをしていたんです。僕も一緒にやって、その後に試合でも投げたんですけど『全然投げられるじゃん』って感じでした」

 試合前にあまりにキツい練習をやりすぎると、試合でパフォーマンスが発揮できなくなるのでは、というのは誰もが思うこと。尾形も「そういう固定概念を持っていた自分がいた。情けない話ですけど」と同様の考えを持っていた。だが、オスナは違った。試合前でも変わらず、自らの体を追い込み、シーズン中でもより強い肉体になるように、日々、鍛えて続けていたのだ。

 オスナから言われたアドバイスは衝撃的だった。

「『見るべきはこの1試合、今日じゃない。この先にある自分の将来を想像してやれ』みたいな感じで言われた。そこからちょっとずつ自分の固定概念が壊れていった感じです」

 オスナと共に試合前にも関わらず、トレーニングで追い込むようにした。「常に昨日の自分を更新できるようにと言われていた。シーズン中でもオフシーズンのつもりでした」。2軍降格後も1人で継続したところ、見るからに自分の体、ボールが変わっていくのを感じた。

 メンタル面でも見習うべきところがあった。マウンドに上がる時の気持ちの持ちようを尋ねた時のことだ。返ってきた答えは「俺は無だ」「マウンド上で自分の仕事をすることに尽くしているから、何の感情もない」というものだった。尾形は「1つ、それも自分にとって必要なのかな、と思いました。マウンドに上がる時に後ろ向きの考えをすることが多かったんですけど、今日はどんな自分に出会えるだろう、とポジティブにマウンドに上がれるようになった」と受け止めた。

 掲げるのはどでかい目標だ。「グローバルな選手になりたい。オスナはその1人。そのレベルに行かないといけない。お手本になる存在なので競って超えられるようにしたいと思います」。来季こそ1軍の舞台で投げ続ける。オスナと共に勝ちパターンの一角を担えるように、そして、いつかオスナから守護神の座を奪い取れるように。尾形崇斗は日々、進化を遂げていく。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)