「自分の投げ方を忘れた」苦悩の2年間 それでも野球を諦めなかったドラ2岩井俊介の執念

ソフトバンクと仮契約を結んだ岩井俊介【写真:福谷佑介】
ソフトバンクと仮契約を結んだ岩井俊介【写真:福谷佑介】

福山アマスカウトチーフからかけられた厳しい言葉「プロは想像の5倍厳しい」

 ソフトバンクは26日、名古屋市の名古屋マリオットアソシアホテルでドラフト2位指名した岩井俊介投手(名城大)と仮契約を結んだ。最速156キロを誇る岩井は「仮契約を終えてプロ野球という世界に行くんだなっていうのは強く感じました」と語り、契約金の使い道として「高校、中学、小学、大学もそうですけど、野球チームに寄付をしたり、親へのプレゼントに使いたい」と表情を緩めた。

 プロからドラフトで指名を受けた喜びはもう拭い去った。「指名挨拶の時に結構厳しく言ってもらったので……。気持ちを入れ替えたというか、もう次のステップへ進むんだという気持ちで毎日練習に行っています」。1月の入寮、新人合同自主トレに向けてすでにトレーニングを再開。背部や下半身の強化を重点的に行っている。

 10月31日に行われた指名挨拶の席で、福山龍太郎アマスカウトチーフから言われた言葉が脳裏に焼き付いた。「プロの世界は、想像しているよりも5倍くらい厳しい。遊んでいる暇はない」。大学野球を引退し、気持ちが緩みそうになるところで、ハッとさせられた。

「まさかこんなに成長できると思っていなかったので、自分でもビックリしています」

 愛知・高浜町の出身。進学した京都翔英高で大きな挫折を味わった。親元を離れ、成長を誓って飛び込んだ高校1年の秋、フォームを崩した。「自分の投げ方を忘れてしまって、縮こまってしまっていたというか、自分のピッチングができなくなってしまって……。だいぶ悩みました」。毎週末、京都に足を運んだ父の二郎さん、母の千春さんも、その悩みを感じていた。

 3年生の夏は、チームは京都大会3回戦で敗退。岩井は公式戦登板のないまま、最後の夏を終えた。「大学で絶対に成長してやろうという気持ちでした。野球を辞めようと思ったことは一度もないですね」。高校では控え投手だったものの、岩井は夢を追いかけた。

 吹っ切れたのは高3の夏が終わり、野球部を引退してからだった。「周りから何も言われないようになって、自分の思うがままに投げたら『おっ!』と思ったんです。いい感覚が出てきたんです」。とにかく腕を全力で振るのが岩井のスタイル。フォームのことや制球のことをとやかく考えずに思い切って腕を振ってみると、2年近く悩みに悩んでいたのが嘘のように、ボールが走った。

 進学した名城大の安江均監督、元中日の山内壮馬コーチは岩井のスタイルを尊重してくれた。「フォアボールを出してもいいからどんどん腕を振っていけ、と。本当にやりやすい環境で僕に合っていたんだと思います」。メキメキと成長して頭角を現し、大学球界を代表する投手にまでなった。

「実は僕、結構明るいキャラなんです。まだ隠していますけど……」

 実際はかなり陽気なキャラクターだという岩井。先輩やチームメートからの無茶振りに応えて一発芸を披露することもある。野球選手のフォームをはじめとしたモノマネも得意だとか……。今後、どこかで披露される機会もあるかもしれない。

「まさか自分が……っていう気持ちはありました」。高校時代の挫折を乗り越え、プロへの道を切り拓いた岩井。ピッチングはもちろん、そのキャラクターが発揮される日が楽しみだ。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)