和田毅の血走った表情が「衝撃すぎた」 降板後ににじんだ“覇気”…KOで閉ざした言葉「何もない」

ソフトバンク・和田毅【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・和田毅【写真:荒川祐史】

「あの試合に関してはすごく気を使いました。相当な覚悟で投げていた」

 9日のオリックス戦(京セラドーム)で、ホークスのレギュラーシーズン全日程が終了した。1年間を駆け抜けたのは選手はもちろん、裏方の人たちにとっても同じ。柳瀬明宏打撃投手兼広報に聞いた。「今シーズンの中で一番、降板コメントを取りづらかった試合はいつですか?」。柳瀬広報はファンの中でも印象に残っている試合を挙げた。グラブを投げつけ、感情を爆発させたあの試合だ。

 先発投手は降板後、球団広報を通じてコメントが出される。主にテレビ中継での使用が目的だが、広報は抑えた時はもちろん、ノックアウトされた時にもコメントをもらいに行かなければならない。「リアルな声を届けたいので」と柳瀬広報も背筋を伸ばし、投手のもとに毎試合のように足を運ぶが、気遣いもタイミングも試される仕事だ。

「もちろん、6回とか7回無失点に抑えた時ならどのタイミングでも聞けますし、しゃべってもくれる。1つはやっぱり聞きに行くタイミングですね。ベンチに戻ってきて、裏までそのままついていくわけにもいかないので。ロッカーに行ったりケアもしながら、ちょっと整理もすると思いますし。あとは人によってアプローチも変えますね。僕が行ったら話をしてくれる選手もいますし、隣に行っても何も話してくれない人もいるので」

 一番、降板コメントを取りづらかった試合。柳瀬広報が挙げたのが、9月17日の日本ハム戦(エスコンフィールド北海道)だ。先発の和田毅投手が5回5失点で6敗目を喫した。2回に2点を失うと、ベンチ内で2度グラブを投げつけて悔しさを表現した。チームから今宮健太内野手、中村晃外野手らが体調不良で離脱した翌日の試合。ゲームを作れず、不甲斐なさだけが胸にあった。柳瀬広報も神妙な面持ちで、その瞬間を振り返る。

「あの試合に関しては、すごく気は使いました。相当な覚悟で投げているのはわかっていたので。画面でも、なかなかああいうの(感情)を出す人じゃないですよね。だからこそ、感じるものが僕もありましたし、本当に近寄りがたかったです」

 和田は今季、20試合で先発。打球が直撃した登板も含めて、5回まで持たなかったのは4試合ある。「それでも普段は丁寧に答えてくれるんです」と言うが、日本ハム戦だけは「降板後にトレーニングをしているところに近づいたんですけど、戻りましたもん」。にじみ出る空気に1度、怖気づいてしまうほどだった。今でも鮮明に覚えているという。和田からオーラになって出ていた悔しさも、ビシバシと伝わってきたピリついた空気も。

「エスコンはトレーニングルームの横にバッティングをするスペースがあるんですけど、そこからちょっと様子を見て。マウンドを降りた投手って『はぁ……』(ため息)っていうか、疲れたっていうのが顔に出るんですけど。その時は本当に、マウンドにいるのと同じような、血走った目をずっとしていたんですよ。降板して1時間くらい経っていたんですけど。顔からも伝わるくらい、印象的でした」

「マウンドを降りて結構時間も経っていたはずなんですけど、それくらい興奮状態でした。またしばらく時間が経って、行って。『和田さん、一言もらえませんか』と言ったら『何もない』という一言だったので。僕が投手のコメントを出すようになってからは、和田さんに関してはそんなこと言われたことなかったです。びっくりしました」

 実は、柳瀬広報にはシーズンのかなり序盤から「最後にどの試合が印象に残ったか聞きますので」と“お願い”をしておいた。和田の空気を見て「それまで候補は結構あったんですけど、あれが衝撃すぎて……。あれがなければ、気を使う選手は他にもいたんですけど、ずば抜けて越えてきた出来事でした」と、柳瀬広報の中でもランキングの逆転があったと認める。裏方さんにとっても、和田の姿はそれほどまでに強烈だった。

 柳瀬広報が投手からコメントをもらうようになったのは2020年から。同年は新型コロナウイルスで取材が大きく制限された時で、オンラインか、代表取材がほとんどだった。「中継ぎの人のコメントを取るのは難しかったです。打たれた時しか要求されないですから。その時なら唯斗(森投手)とか」。広報として仕事を果たそうとする一方で、投手の気持ちに寄り添うことだけは常に心がけてきた。

 降板した瞬間とは、人柄がにじみ出る瞬間でもある。好投をしても、イニングの途中で代えられたことに悔しさを覚える選手だっている。「性格も出ますから、面白いですよ。そういう時に、自分を客観的に見られる人ってすごいと思いますし、勉強にもなりますよ」とやりがいを感じている。降板コメントを取るからには、自分自身も誰よりも試合と向き合っていないといけないからだ。

「投げ終わって帰ってきて『あそこどうでした?』とか聞かれるので、僕も1球1球、全球種を見ておかないと。降板後になんて言うのかな……って思いながら試合を見るのも面白いですし、どこが反省点になるのかなって思って聞きに行って、『やっぱりそこなのか』って思えたりして。選手から反省を聞いて、また次のピッチングを見た時に『ああ、なるほどね』ってこともあるので。自分も成長できるのかなって思いますね」

 少しでも選手のありのままの姿が伝わるように、尽力する人たちがいる。そんな裏方さんの1人1人にも、プロとしての心構えがある。

(竹村岳 / Gaku Takemura)